38. 北タイの納豆トウアナオ 2014年10月19日

(1)はじめに
 
  納豆は日本独自の発酵食品と思われがちであるが、実際にはこれと類似したものがアジア各地に存在している。
中尾佐助氏は、キネマのあるネパール、テンペーのあるジャワ、納豆のある日本を結んで「納豆群(無塩大豆発酵製品)の大三角形」と呼んでおり、その発祥の地として、豆司のある中国雲南を考えている。(中尾佐助. 料理の起源. NHKブックス.1972.)


 味噌、醤油などの加塩大豆発酵製品群は中国河北文化の産物とし、納豆群は照葉樹林文化の産物とされる。
北タイには「トウアナオ」という、糸を引かない納豆がある。
5.茶葉の漬物ミィエンの調査と同じ日にチャンマイを訪問し、トウアナオについても調査を行ったのでその紹介をする。
調査日は1993年3月20日、場所はチャンマイ県ドイサキット郡ドイサキット町であった。


(2)大豆の煮沸方法

 水洗した大豆を鍋に入れて煮沸する。燃料は木炭であった。(写真1-2)
大豆は指で摘まんで潰れる程度まで煮続ける。通常3~4時間である。

 


(3)発酵方法

 発酵容器は屋外に置かれた竹製の籠である。(写真2-1)
籠の底には前に発酵したトウアナオが残っており、ここに発酵菌が棲息している。(写真2-2)
トウアナオつくりの第1の秘伝はこの大きな葉を籠の底に敷き、その上に煮た大豆をのせる。(写真2-3)
第2の秘伝は小さな松の棒を豆に刺すことである。(写真2-4,2-5)
これにより良好なフレーバーが得られるとのことであった。
籠をプラスチックシートで覆い、さらに雨を防ぐためにトタン板をかぶせて3~4日放置すると生トウアナオができあがる。(写真2-6)


 発酵中の生菌数とpHの変化を図2に示した。



(4)製品化方法

 発酵を終えた生トウアナオはニンニクやトウガラシなどとともにすりつぶしてペースト状にする。(写真3-1)
これをバナナの葉に包み(写真3-2)、蒸すか(写真3-3)ローストする(写真3-4)。
写真3-4で見学する私たちを犬がのぞいていたが、この犬は秘伝ではないので念のため。
 市場へはプラスチックの袋にいれて出す。(写真3-5)
この人は1日に1回トウアナオを造っているとのこと。
しかし、子供たちは後を継いでくれず、もう自分の代で終わりだろうと言っておられた。


(5)トウアナオの食べ方

 バナナ葉の包みを解き、カオニョウという蒸したモチ米につけて食べる。
この地方ではうるち米ではなくモチ米が主食である。
トウアナオの香りは日本の納豆と同じであった。味は非常に辛いトウガラシがはいっているので日本の納豆とはまったく異なる。



(6)トウアナオの色

 トウワナオの色はもちろん「糖蜜色」の仲間である。
ペースト状のもの以外にチップ状のものもある。これはペーストをチップ状にしたあと天日乾燥して造るとのことであった。
 


(7)おわりに

 タイの主たる調味料はナムプラー(魚醤)とカピ(エビ、小魚、オキアミなどの発酵ペースト)である。これらについては、後日紹介したいと思う。
タイの研究者によるとトウアナオは魚があまり獲れない山岳地帯でナムプラーやカピの代替として消費されてきたと言う。
 納豆もお茶もその発祥の地は雲南省であり、北タイのすぐ近くである。
納豆やお茶の伝搬とともに日本人のルーツの何割かはこのあたりに発しているような気がしてならない。
その割合はかなり高いと思う。

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