55. アンコールワットの女神像 2015年3月19日

   2004年の4月にカンボジアのアンコールワットを見に行った。(写真1)



 アンコールワットで最も美しく思ったのは糖蜜色の女神像であった。(写真2)



 菅原太氏(逸脱する造形-アンコールワット女神像の変容、 藝1(2003)によると、アンコールワットの壁面には約2千体の女神像(女神デヴァターもしくは天女アプサラ)が浮彫りにされていたとのことである。
それぞれに個性がありそれぞれに、貴婦人、女官、踊り子のモデルがいたとも言われている。
女神像の美しさについて同氏の論文の一節をそのまま引用させていただく。
「私たちが近代以前の自国の身体表現に対して感じるのは、現代のそれとは随分かけ離れた美意識であろう。それは仏教美術以外では裸体美といえるような造形文化が発達しなかったことが大きな原因と言えそうである。
中国文化圏の身体美が、裸体を衣服によって覆い隠したものであるのに対し、裸体の美と衣装を付けた身体の美が、ボディーラインに於いて同一といえるような現代の美意識に近いものがインド文化圏では成立し、
公的なコスチュームであるが故に高度に洗練されたその身体美が仏教美術を介してのみ中国を経由して日本に流入した結果と思える。
アンコールワットの浮彫り女神像が現代日本の身体美に近いと思わせるのは、そのプロポーションもさることながら、しなやかで重い肉感性のない肢体表現によるものであろう。

 女神像は灰色-黄褐色砂岩に彫られており、糖蜜色の原因は砂岩に含有される鉄によるものである。


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