137. 植物由来の抗糖化物質 2017年6月23日

(1)はじめに

 植物由来の抗糖化物質に関する下記総説からそれぞれの植物と、この総説に記載された参考文献を紹介する。

 



(2)抗糖化物質の起源植物と物質群について

 表1に示すように起源植物等は40種類あり、この中で植物と言えない物が2種含まれていた。
抗糖化作用を示す物質群としてフェノール(12種)、フラボノイド(23種)、その他のフェノール性物質(2種)、テルペン、カロチノイド、高級不飽和脂肪酸(4種)、多糖体(3種)に分類された。




(3)米、小麦、エンバク(表29

 ①米と②小麦は人類にとって最も重要な主食であり、改めて説明する必要はないだろう。
 コレクション41節「黄金色の収穫(米と麦)」を参照されたい。
 ③エンバクはオートミールとして利用されており、食物繊維、ミネラル含量の高い健康志向食品の一つである。
 これらの抗糖化物質はフェルラ酸(Ferulic acid)である。

 


(4)コーヒー、イエルバ・マテ、レモンバーム(表3)

 ④コーヒーについても説明の必要はないだろう。
 コレクション2節「珈琲」を参照されたい。抗糖化物質はクロロゲン酸(Chlorogenic acids)である。
 ⑤イエルバ・マテはパラグアイ、ブラジル、アルゼンチンに生育し、南米のマテ茶は西洋のコーヒー、東洋の茶と並ぶ世界の三大嗜好飲料である
 抗糖化物質はコーヒー酸(Caffeic acid)である。
 ⑥レモンバームはレモンのような香りがするハーブで主要成分がロズマリン酸(Rosmarinic acid)である。それ以外にクロロゲン酸、コーヒー酸も含む。





(5)丹参(たんじん)、イエギク、シマカンギク(表4)

 ⑦丹参はその根が漢方薬として使われる。抗糖化物質はロズマリン酸である。
 ⑧イエギクは栽培されているキクで食用菊として利用されることもある。
 ⑨シマカンギクは野菊である。
 キク類の抗糖化物質はコーヒー酸、ルテオリン(Luteolin),ケンペロール(Kaempferol)である。

 


(5)ヒメジュオン、ハマスゲ、ウルシ(表5)

⑩ヒメジュオンは道ばたでよく見かける雑草。抗糖化物質はキナ酸(Quinic acid)の誘導体である。
⑪ハマスゲはカヤツリグサの一種で雑草である。肥大した根茎からは香附子(こうふし)と呼ばれる生薬がつくられる。
抗糖化物質は没食子酸(Gallic acid),p-クマル酸(p-Coumaric acid)である。
⑫ウルシの樹皮に傷をつけて生漆をつくり、漆塗りに使われる。
没食子酸、没食子酸エチルなどが抗糖化物質である。



(6)大豆、ソバ、クズ(表6)

⑬大豆についても説明の必要はないだろう。
 大豆に関係した節として以下を参照されたい。
 コレクション
 38節「北タイの納豆トウアナオ」
 39節「味噌力」
 42節「醤油」
 58節「八丁味噌」
 日誌
 49節「納豆土に還る」
 大豆の抗糖化物質はイソフラボン(Isoflavone)である。
⑭ソバについても説明の必要はないと思われる。その抗糖化物質はケルセチン(Quercetin)である。
⑮クズの根は葛根という名で多くの漢方薬に配合されている。抗糖化物質はプエラリン(Puerarin)である。




(7)ブドウ、リンゴ、グアバ(表7)

 ⑯ブドウと⑰リンゴはポリフェノールを多く含む果物として有名である。
 ⑱グアバは熱帯の果物で淡い甘酸っぱさがあり、とてもさわやかな味がする。タイではファランと呼び、私の好きな果物の
 ひとつである。抗糖化物質はフェノール性化合物であるとされている。
 



(8)緑茶、クミン、タマネギ(表8)

 ⑲緑茶については下記を参照されたい。
 コレクション
  5節「茶葉の漬物ミィエン」
 22節「緑茶」
163節「和束の茶畑」
 日誌
 17節「茶とサトウキビ」
 抗糖化物質はカテキン類である。
 ⑳クミンはカレー粉に使用される香辛料で抗糖化物質はフラボノイドである。
 ㉑タマネギについてはコレクション113節「タマネギ」を参照されたい。
 抗糖化物質はケルセチンである。




(9)シナモン、蓮、トウモロコシ、リュウキュウヨモギ(表9)

㉒シナモンについてはコレクション66節「シナモン」を参照されたい。抗糖化物質はプロトアントシアニジンである。
㉓ハスの葉に抗糖化物質が存在するということで、それはケルセチン誘導体である。
㉔とうもろこしのひげは絹糸と呼ばれ、雌しべである。抗糖化物質はアピゲニン誘導体である。
㉕リュウキュウヨモギは日本では鹿児島から沖縄にかけて分布し、川岸や海岸に生える。
 花穂を乾燥させたものを生薬の「いんちんこう」と言う。抗糖化物質はヒスピズリン(Hispidulin)である。




(10)笹・竹、キマメ、サルナシ(表10)

 ㉖笹、竹については説明不要であろう。
 ㉗キマメの種子はラテンアメリカ、アフリカ、アジアで食用穀物として利用されている。
 ㉖㉗の抗糖化物質はビテキシン(Vitexin)とイソビテキシン(Isovitexin)である。
 ㉘サルナシはマタタビ科のツル性落葉植物。熟した果実は果実酒、ジュース、砂糖漬けなどとして利用されている。
  抗糖化物質はプロトシアニジンである。




(11)ゲンノショウコ、コウエンボク、ミミセンナ(表11)

 ㉙ゲンノショウコは日本全土の山野や道端に普通に見られ、センブリなどと共に、日本の民間薬の代表格である。
  抗糖化成分はゲラニイン(Geraniin)とエラジタンニン(Ellagitannin)である。
 ㉚コウエンボクの成分に抗糖化作用があるということは、私にとって喜びであった。
  タイ国にいるときに、慣れ親しんだ植物だからである。タイ語では「ノンシー」と言う。
  ノンシーについて下記を参照されたい。
  コレクション
  第67節「ノンシーの花と実」
  第68節「ノンシーの切株の色変化」
  抗糖化物質はケルセチン誘導体である。
 ㉛ミミセンナはインド、セイロン、ビルマに産する。。材は褐色で硬い。樹皮にタンニンを含み、インドの鞣皮用植物の主なものの1つであり、また染色に用いられる。
 葉は乾燥して茶のように飲用し(matara tea)、葉を下剤、若枝を歯楊子にするとのことである。
 抗糖化物質はケルセチンおよびケンペロールである。




(12)蜂蜜、ツルドクダミ、ゲットウ (表12)

 ㉜蜂蜜については コレクション 第104節「蜂蜜」を参照されたい。抗糖化成分はフラボノイドである。
 ㉝ツルドクダミは葉がドクダミに似てツルになることからこの名がつけられた。ドクダミとは異なる植物である。
  ツルドクダミの塊根を漢方薬の生薬として「何首烏(かしゅう)」とよび、古くから不老長寿のための滋養強壮剤として利用されてきた。
  抗糖化物質はスチルベン(Stilbene)誘導体である。
 ㉝ゲットウの葉から取った油が甘い香を放つので、アロマオイルや香料として使用する。虫よけの効果もある。沖縄県では葉にムーチーを包んで蒸す。
  抗糖化物質は 5,6-dehydrokawain (DK) and dihydro-5,6dehydrokawain (DDK)である。




(14)珪藻、クロレラ、アルジェナ (表13)

 ㉟珪藻は単細胞藻類で不飽和脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸)に抗糖化作用があるとされている。
  このような不飽和脂肪酸に抗糖化作用があるというのは私にとっては意外であった。不飽和脂肪酸は酸化されやすく生成した過酸化脂質は
 メイラード反応を促進すると考えていたからである。これらの抗糖化のメカニズムについては後日原著を読んで確認したい。
 ㊱クロレラは淡水性単細胞緑藻である。抗糖化物質はルテイン(Lutein)、アスタキサンチン(Astaxantin)などである。
 ㊲アルジュナはインドを原産とする樹木で、アーユルヴェーダでは、心臓の健康を保つハーブとして、アルジュナは伝統的に利用されている。
 抗糖化物質はArjunolic acid である。



(15)リュウガン、霊芝、ニホンカボチャ(表14)

㊳リュウガンはタイ語でラム・ヤイといい、タイにいるときはよく食べた。

 漢方薬として果肉を乾燥させたものを竜眼肉(りゅうがんにく)、桂円肉(けいえんにく)と呼ぶ。心と体を補い補血、滋養強壮の効果が有るとされる。
 抗糖化物質は多糖体である。
㊴霊芝の多糖体については過去にかなり研究したことがあるが、そのものに抗糖化作用があるということはこの総説を読んで初めて知った。
 下記を参照されたい。
 コレクション
 第54節 「霊芝」
 第162節 「天然霊芝」
㊵ニホンカボチャは日本で栽培されている普通のカボチャである。その多糖体に抗糖化作用があるという。





(16)その他の抗糖化物質(表15)

 表15の中で私が特に興味をもったのはメラノイジンの中に抗糖化作用をもつものがあるということである。




(17)おわりに

 この総説を読んで感じたことは「人類が食用または薬用として選択してきた植物には多かれ少なかれ抗糖化物質が含まれているのではないか」ということである。
植物には体内メイラード反応を促進する物質も抑制する物質も含まれており、その中で抑制する成分だけを抽出し利用することが必要なのである。
 私としてはあくまでサトウキビ、黒砂糖そして糖蜜由来の抗糖化物質にこだわって研究を続けていきたいと思う。

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