154.糖蜜発酵廃液の水槽脱色試験(1年間) 2017年11月23日

 (1)はじめに
  第115節において水槽脱色試験1ヶ月目の状況をまとめたが、その後1年間実験を続行した結果を報告する。


(2)実験方法
 実験方法を図1に示す。
 第1期の30日間は第115節に記載したとおりで有り、第2期は液の循環を止めて203日間静置した。
第3期は液の循環はせずに水槽用エアレーターで通気を132日間行った。


 液温の変化を図2に示す。また蒸発分を補填した水道水の累積量を図3に示す。
 初期の水道水量が30kgであるから約2.7倍量の水が蒸発したことになる。

 
 


(3)液表面の状態
 
 液の循環を開始した当初は液面は泡だっていたが、しだいに泡は消えていった。 静置時には当然泡は無く、通気時には泡が発生した。
 
 


(4)pHの変化

 第1期にはpHが上昇、これが第2期にはいっても90日ごろまで続いた。
 90日以後、pHは下降し、最後の300日目以後は再上昇した。

 第1期のpH上昇は糖蜜発酵廃液中の有機酸が添加した土壌微生物によって消費されるためであると考えられる。
 第2期のpH下降はシアノバクテリアによる有機酸の生成、第3期のpH再上昇はシアノバクテリア生成有機酸の消費およびシアノバクテリアの溶菌による
 塩基性物質の漏洩が推定される。
 シアノバクテリアの増殖については後述する。

 


(5)色(RGB)の変化
 
 写真2にサンプリングした液の写真を示す。
 時間の経過とともに糖蜜色が薄くなっているのがわかる。
 図5は写真2のRGBとT(R+G+B)の変化である。
 RとBが上昇し、Bは変化がなく、合計値のTが上昇した。
 図6はR%,G%.B%の変化である。
 RとGの比率が増加し、Bの比率がが減少している。



(6)色度(可視部OD)の変化

 サンプルを遠心分離してスラッジを除いた上清を水で50倍に希釈したときのOD変化を図7に、最初のODを100%としたときの相対ODの変化を図8に示す。
 長波長のODほど相対ODの低下が大きくOD650では0~20%までで低下した。OD500-450では60~70%しか低下しなかった。
 8月以後はODは再び上昇する傾向にあった。


 

 紫外可視吸収スペクトル(図9)を見ると、最初のサンプルは200nmにピークが270nmにショルダーがある。
 OD200,OD270とOD420の相対値の変化を図10に示す。
 OD200は90日まで急激に低下しその後再上昇する。
 OD200は有機酸や糖類のカルボニル基の吸収を代表しており、90日までは添加した土壌微生物による消費がおこり、それ以後はシアノバクテリアにより
 空気中の炭酸ガスからの光合成により増加すると考えられる。
 OD270は芳香環の吸収を代表しており、30日までは速く、30日~200日まではゆっくりと、200日以後は再び速く減少する。
 静置したときに減少速度が遅くなることから酸素の寄与を示唆している。
 図11に示すようにOD420とOD200の相関はほとんどなく、OD420とOD270には強い正の相関があった。
 芳香環の分解と色度の減少には相関があるということであろう。

 
 


(7)スラッジの発生

 水槽の側壁には写真3に示すような緑色のバイオフィルムができた。
 採取した液を放置するとすぐにスラッジが沈降した。
 スラッジを水洗すると淡褐色であった。(写真4)

 
 


(8)スラッジの顕微鏡写真
 
 6月26日のスラッジには連鎖状につながったシアノバクテリアが存在した。(写真5-1)


 8月4日なると連鎖状の細胞より単細胞のものが多くなった。また色素を消失した細胞が多数見られるようになった。(写真5-2)
 
 10月16日のスラッジでは細胞の形は崩れ、残渣になっていた。(写真5-3)
 


(9)最終水槽内液の処理

 365日が経過した2017年10月30日の水槽内液を図12のように処理した。

 

 写真6に1次軽液の濃縮経過を示す。得られた濃縮液(写真7)は冷蔵保存した。
 
 
 写真8に分画サンプルの画像を図13にそのpHを示した。
 1次軽液の濃縮によりpHは低下した。
 


(10)固形分と色度のバランス

 糖蜜発酵廃液から入った固形分および色度(OD450nm)のバランスを図14に示す。
 固形分は40%が1年間の実験中に消失し、60%が残存した。残存固形分の内訳は溶解55.4%、不溶解4.5%であった。
 色度は32%が消失し、68%が残存した。

 
 


(11)結果のまとめと考察

①脱色率は30%~40%であり、それ以上は進行しなかった。
 第108節に記載したようにメラノイジン脱色能を持つ微生物はグルコースなどの栄養源を必要とするのが普通である。
 今回の実験でもシードとして添加した土壌微生物の栄養源(糖や有機酸など)がなくなってからは、土壌微生物そのものが死滅してしまい。
 脱色も停止したと考えられる。
②土壌微生物の栄養源がなくなった後は光合成による炭酸同化作用を有するシアノバクテリアが繁殖した。
 シアノバクテリアもおそらく無機栄養源(燐酸など)の枯渇により死滅し、その死骸分解物がメラノイジン前駆体となり、色度は再度上昇傾向となった。
③土壌微生物の栄養源がなくなった後にメラノイジンを栄養源として増殖する微生物の出現を期待したが、残念ながらシアノバクテリアが先に増殖したことになる。
 やはり空気中の炭酸ガスや窒素を固定する能力のあるシアノバクテリアはチャンピオンである。
④今後は冷蔵保存している1次軽液濃縮液を材料に用いて以下の実験を行う予定である。
 1)種々の方法による色素の分画
 2)分画物のMSG-グルコース系メイラード反応の抑制効果の確認
 第129節で黒砂糖酵母発酵液の60%エタノール抽出、分子量1000~3500の分画のメイラード反応抑制効果を確認している。
 第130節でその物質はフルボ酸に分類できるのではないかと記載した。
 今回調製した濃縮液の中に、これと同等以上のメイラード反応抑制作用があることを期待している。
 3)濃縮液を希釈して種々の栄養源を添加して、さらなる脱色作用を見る。

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