172.アルツハイマー病とAGEsそして鉄の関係 2018年5月1日

(1)はじめに
 「ワンダムおじさんの糖蜜色研究:6.2 生体内メイラード反応が寿命を縮める」ではToxic AGEs(毒性の終末糖化産物)が慢性疾患症に寄与していることを記載した。そのときは、「その発症のメカニズムについてはワンダムおじさんの能力を超えるのでここでは論じない。」とも記した。
 そらから5年が経過し、私はアルツハイマー病に特に興味を持ち勉強を続けている。
 アルツハイマー病にAGEsがどのようにかかわっているかについていくつかの論文をインターネットで入手して読んだが、その中で下記文献がもっともしっくりいくものであった。
本節では私なりに解釈した結果を紹介したい。

 



(2)アミロイドβの生成

 アルツハイマー病患者の脳には健常者より多くの老人斑があり、そこにアミロイドβというタンパク質の凝集物が蓄積している。
神経細胞同士の接合部(シナプス)には、わずかな間隙(シナプス間隙)があり、ここで情報を伝える神経伝達物質が放出されている。
図1に示すように、シナプス前終末にあるエンドソームの中にはAPP(アミロイドβ前駆体)があり、それが酵素で切り出されてアミロイドβとして
間隙に放出されている。アミロイドβの役割はシナプスの機能を調整しており必須の物質である。
通常はアミロイドβの濃度は一定に保たれているが、産生と除去のバランスが崩れると、アミロイドβが過剰になりアミロイドβ分子が結合したアミロイドβオリゴマー
ができる。アミロイドβオリゴマーは神経細胞に対する強い毒性を有するので、この毒性を和らげるために大量のアミロイドβ分子を結合し、アミロイド線維を形成する。
このアミロイド線維が神経細胞外に蓄積したものが老人斑である。




(3)アミロイドβのアミノ酸組成

 アミロイドβは試薬として販売されており、そのアミノ酸組成を図2に示す。
 重要なのはイオウを含むアミノ酸である35番目のメチオニン(後ほどMetS-35という記号で出てくる)と6番、13番、14番のヒスチジンである。(ヒスチジンが鉄イオンを結合する)




(5)アミロイドβの糖化反応

 アミロイドβは蛋白質であるから、そのアミノ基はグルコースやカルボニル化合物のカルボニル基の攻撃を受けで図3のように糖化反応が進みAGEsを生成する。
 ①AGEsの中でCMLやCELはRAGE(AGE受容体)を強く活性化する。RAGEが活性化すると図5に示すように活性酸素種の生成が促進される。
 ②GOLDとMOLDはアミロイドβ間を強く架橋しアミロイドβの凝集を促進する。




(6)金属イオンとMetS35との相互作用の可能性(図4)

 一つのアミロイドβ(Aβ1)にはFe3+が結合している。Fe3+は酸化還元活性がなく無害である。
 糖化による架橋反応によりもう一つのアミロイドβ(Aβ2)が結合し、その分子上のMetS35とAβ1に結合したFe3+が接近する。
 MetS35はFe3+を酸化還元活性が強く有害なFe2+へ還元する。

 


(7)フェントン反応

 図5にアミロイドβ、AGEs、Feイオンが関連した破壊的フリーラジカル(ヒドロキシラジカル)の生成過程を示す。
 1つは図3に示したAGEsによるRAGEの活性化である。これによりPKCζが活性化され、最終的にスーパーオキサイドラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカルが生成する。
 ミトコンドリアの電子伝達系から漏洩した電子によりスーパーオキサイドラジカルが生成されるが、SODにより過酸化水素になり、過酸化水素はカタラーゼとグルタチオンパーキシダーゼにより無害化される。
 しかし、ここでFe2+が存在すると過酸化水素はフェントン反応によりヒドロキシラジカルを生成するのである。
 すなわち2つ目はFe3+がMetS35の作用によりFe2+に還元されることにより、フェントン反応を起こることである。
 フェントン反応で生成したヒドロキシラジカルはまわりにあるあらゆる有機分子を破壊してしまう。
 細胞膜を構成している脂質が破壊されるいわゆる「破壊サイクル」が始まってしまう。
 そして、脳細胞が次々に死んでしまう。
 フェントン反応で再生されたFe3+は再びアミロイドβに結合し、この反応が繰り返し起こることになる。



(8)2分子のアミロイドβのMOLDによる架橋、MetS35および鉄イオンの位置関係(図6)

 赤文字で書いたのがアミロイドβ1で黒文字で書いたのがアミロイドβ2である。
 鉄イオンはヒスチジンに結合している。
 16番のLリジンのところでMOLDを介して架橋している。
 架橋により35番のメチオニンとヒスチジン(鉄結合)の距離が縮まりFe3+のFe2+への還元反応が起きやすくなる。


 


(9)MetS35とアミロイドβに結合したFe(Ⅲ)との反応

 Met35はAβ-Fe3+と反応しMetS35*+(ラジカル)とAβ-Fe2+を生成する。
 MetS35*+(ラジカル)はMsrAによりMetS35が再生される。
 Fe2+はフェントン反応によりヒロドキシルラジカルを生成する。



(10)まとめ

 ①アミロイドβはグルコースやカルボニル化合物と反応しAGEsを生成する。
 ②生成したAGEsのあるものはアミロイドβ分子を架橋し、凝集を促進する。
  架橋によりアミロイドβ分子のヒスチジン残基に結合しているFe3+と別のアミロイドβ内のMetS35との距離が近くなる。
 ③MetS35はFe3+をFe2+に還元する。
 ④Fe2+はミトコンドリア電子伝達系から漏洩した電子から生成する過酸化水素と反応し破壊的ラジカルであるヒドロキシラジカルを生成する。
 ⑤生成したAGEsのあるものはRAGEを活性化し活性酸素種をつくる。(ヒドロキシラジカル、過酸化水素を含む)
 ⑥ヒドロキシラジカルが脳細胞を破壊する。
 ⑦破壊された脳細胞が増加するとアルツハイマー病の症状を呈する。


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