192. 糖蜜のカビ2  2018年9月2日

(1) はじめに
 本節は第99節 糖蜜のカビ (2016年8月14日)の続きである。
 その後2年が経過し、2018年8月31日に皿上糖蜜の室内放置試験を終了し、冷蔵保存した同じ糖蜜との物性を比較した。


(2) 2016年8月から2018年8月までの皿上糖蜜の変化
  写真1-1,1-2,2-1,2-2に示した。

 
 
 
 


(3)全期間の月次変化

 写真3に全期間の月次変化(月初め)を示した。
 カビカロニーによる糖蜜表面の被覆度を0から5段階に評価し図1に示した。
 図2には月別の表面被覆度を示した。
 これによると被覆度が高まるのは夏~秋にかけててであり、冬~春は被覆度が減少していることがわかる。
 

 図3には年別の最大と最低の被覆度を示した。
 2015年と2016年は5の最大被覆度を示したが、2017年と2018年はそれぞれ4,3と低下した。
 最低被覆度は2015年の3をピークに2017年と2018年はそれぞれ1,0と低下した。
 年々糖蜜中の栄養源が減少するためであると考えられる。
 


(4)コロニーの顕微鏡写真(写真4)
 菌糸体と球状の胞子が混在していた。


 


(5)皿上糖蜜と冷蔵糖蜜の物性比較

 2018年8月31日に皿上糖蜜の放置を終了し、写真4のように混合してから冷蔵保存していた同じ糖蜜と物性比較を行った。

 



(5)-1 糖蜜サンプルの水溶解物と不溶解物の分離

 図4のように糖蜜サンプルを水に溶解し、60℃に加熱してから自然沈降で上層部と下層部に分離した。
 さらに図5のように上層部と下層部を遠心分離して上清と残渣を得た。
 上清は水で100倍希釈して紫外可視吸収スペクトルの測定に、残渣は水洗して顕微鏡写真を撮影した。


(5)-2 糖蜜サンプルの乾燥

 写真5に示すように糖蜜サンプルを最初60℃の恒温槽で,次いで160℃のホットプレートで乾燥した。
 図6に60℃における乾燥残渣の経過を、図7に160℃における経過を示した。
 60℃では両サンプルとも20hrで一定残渣量となり、皿上糖蜜は82%、冷蔵糖蜜は80%とほぼ同じであった。
 160℃では皿上糖蜜の乾燥残渣は僅かしか低下せず78%であった。
 一方、冷蔵糖蜜は大きく低下し63%であった。



(5)-3 湿残渣重量のマスバランス

  湿残渣重量バランスを表1で計算し、冷蔵糖蜜の総湿残渣重量を100%としたときの湿重量相対重量のバランスを図8に比較した。
 総湿残渣重量は冷蔵糖蜜に対し皿上糖蜜は約60%増加していた。これは糖蜜表面に増殖したカビの菌体によるものである。
 自然沈降重液(下層部)は皿上糖蜜/冷蔵糖蜜=47%/32%=147%、自然沈降軽液(上層部)は皿上糖蜜/冷蔵糖蜜=111%/68%=163%であった。

  


(5)-4 乾燥残渣量

 図9に示すように、皿上糖蜜は60℃乾燥重量と160℃乾燥重量の差は僅か2%であった。
 これは160℃で蒸発する結合水や160℃で分解して気化する成分はほとんど残っていないことを意味する。
 一方、冷蔵糖蜜は60℃乾燥重量と160℃乾燥重量の差は約20%もある。
 60℃では蒸発しない結合水と160℃になって分解気化する成分が多く存在していると言える。
 過去に実施した糖蜜の示差熱分析によれば120~125℃で急激な水分の蒸発がおこり、135℃付近でグルコースとフルクトースの分解(脱水縮合)がおこっている。
 冷蔵糖蜜の乾燥重量の大きな差はこれが原因であると言えよう。


 


(5)-5 pH

 自然沈降軽液(上層部)のpHは図10に示すように、皿上糖蜜<冷蔵糖蜜であった。
皿上糖蜜ではカビにより有機酸が生成しているものと考えられる。
 


(5)-6 紫外可視吸収スペクトル

 図11に示すようにすべての波長で皿上糖蜜の吸光度が冷蔵糖蜜より大きい。
 メラノイジンの比率が高くなっていると言えよう。


  OD210nmを100%としたときの相対吸光度スペクトルを図12に示す。
  冷蔵糖蜜のピークは200nmにあるのに対し、皿上糖蜜は210nmにある。
  糖のある部分が有機酸に変わったためではないかと考えられる。
  (当私設研究室では残念ながら糖と有機酸の分析はできない。)

  


(5)-7 洗浄湿残渣の顕微鏡写真

 写真6に示すように皿上糖蜜の残渣は菌糸、胞子かならる塊である。
 冷蔵糖蜜は種々の微粒子からなっている。


(6)おわりに

 最初、糖蜜を皿に注いで放置したのは、水分を失って乾燥していくのか、水分を吸収していくのかを見るためであった。
 最初の夏までは何事もおこらず、おそらく乾燥していくのではないかと考えた。
 しかし、最初の夏に表面にカビが繁殖するのを見て驚いた。
 通常、糖蜜は水分活性が低くカビは生えないからである。
 夏に湿度が高くなって表面の水分活性が高くなり、かつ室温が上昇したためカビが繁殖したものと考えられる。
 そのカビのコロニーも冬になると消えてゆき、また夏になると出現した。
 その面白さに見せられて4年間も観察を続けることになった。
 趣味の研究だからできることであると思う。


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