214. 餅残渣の再放置 2019年1月28日

 本節は175節「放置した餅の変色」の続きである。
 すなわち餅を2.3年放置して腐敗して残った黒色残渣を175節の写真7のようにして再放置してその経過を観察した。


(1)餅残渣の再放置経過

 2018年4月18日に再放置を開始したところ5月21日に微生物コロニーが発生し、これが増殖した。
しかし、7月9日には強い風雨で雨が容器内に入りコロニーは見えなくなった。(写真1)
 その後、微生物コロニーの発生は認められず、9月24日に多量の水を添加した後も同様であった。(写真2)
2019年の1月に入ってからは水の添加を止め、自然乾燥にまかせ2019年1月23日に再放置を停止して残渣を回収した。(写真3)






(2)再放置餅残渣の炭酸ナトリウム水溶液による抽出

 再放置餅残渣は写真4のように乳鉢で粉砕し、粉砕物を写真5のようにして抽出した。




 抽出液は遠心分離し残渣(不溶解物)と軽液に分けた。
 残渣は水洗して洗浄湿残渣を得た。(写真6)
 また軽液は紫外可視吸収スペクトルを測定するために希釈した。(写真7)



(3)湿洗浄残渣の顕微鏡観察

 写真8に顕微鏡画像を示す。
 湿洗浄残渣は微生物残渣そのものであった。



(4)抽出軽液の紫外可視吸収スペクトル

 図1に示すように腐植物質と同じ一般吸収を示し、270nmに肩を持っていた。
 可視部のOD420nm、紫外部のOD270nmとも抽出液の炭酸ナトリウム濃度に比例して増加した。(図2,図3)

  


(5) 炭酸ナトリウム濃度と抽出軽液のpH
 
 図4に炭酸ナトリウム濃度とpHの関係を示す。
 pH9以上でアンモニア臭が発生した。
 抽出軽液ではフミン酸がアンモニウム塩として存在しており、pH9以上ではアンモニウムイオンがナトリウムイオンに置換したためと考えられる。




(6)洗浄湿残渣の乾燥

 図5に洗浄湿残渣の乾燥曲線を示す。



 図6には洗浄湿残渣の相対乾燥重量を示す。
 乾燥後の相対重量は炭酸ナトリウム濃度0.4%付近で極小となり、それ以上の濃度で増加した。
 微生物菌体の残渣は高分子アニオンでありそのアンモニウム塩は乾燥時にアンモニアが気化するがナトリウム塩は気化しないためで
 あると考えられる。
 乾燥前の相対重量は炭酸ナトリウム濃度の上昇とともに増加した。
 pHの上昇により残渣の水分保持能が上昇するためと考えられる。



(7)乾燥残渣のガスコンロによる強熱

 乾燥残渣(炭酸ナトリウム濃度を変えた実験のすべての混合物)をガスコンロで強熱したところ火炎を上げて燃焼した。(写真9)
1回目の強熱残渣には未燃カーボンが残っていたため、残渣を水で懸濁し2回目、3回目の強熱を行った。(写真10,11)
最終的には灰色の灰が残存した。




(8)抽出前の餅残渣のガスコンロによる強熱

 抽出前の残渣も火炎を上げて燃焼したが、未燃カーボンがなかなか消失しなかった。
 この理由は抽出後の残渣にはナトリウムイオンが存在するのに対し、抽出前の残渣はそうでないことが原因であると考えられる。
 残渣の水懸濁-強熱を繰り返して最終的に灰色の灰を得た。(写真12)



(9)灰分バランスによる餅の有機固形物の消長推定

 抽出後の乾燥洗浄残渣の強熱残分は2.9%(図7)、抽出前の残渣の強熱残分は3.8%(図8)であった。

  


 餅放置中に強熱残渣(灰分)は変化しないとすると、放置中に餅の有機固形分の92%が消失したことになる。
 灰分8%のうち3%は不溶解の残渣へ5%は抽出軽液に移行したと推定される。


(10)まとめ
 餅を長期間(2.3年+0.8年=3.1年)放置すると、餅の有機物の90%以上は炭酸ガスおよび水として消失する。
 残りの残渣は微生物と腐植酸の混合物であると見られた。

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