248. 室温で2.83年かけたメイラード反応の抑制 2019年8月25日

(1)はじめに
 第104節「黒砂糖酵母アルコール分画物のメイラード反応抑制作用」ではMSG-グルコース系において40℃*8日間の反応を行った。
8日間の反応液をそのまま室内に放置し1,030日(2.83年)が経過した。
このたびその放置液の紫外可視吸収スペクトルを測定し解析を行った。

(2)放置サンプルの由来と実験方法
 図1に放置したサンプルの由来と実験方法を示した。
 原料となるサトウキビは2014年に生育したが2015年の4月までには刈り取らず、2016年3月から4月に刈り取った物である。
 すなわち旧株とは2014年に生育したものであり、新株とは2015年に新たに出た芽が生育したものである。
 旧株と新株から黒砂糖をつくり、その黒砂糖をパン酵母で発酵させて糖分を除去し、蒸発乾固してアルコールを除去した。
 発酵濾液の蒸発乾固物にエタノールを添加して、沈殿物と溶解物に分離した。
 それぞれを、水に溶解し、不溶解物を除去し、固形分濃度を2%に調整したのがメイラード反応に使用した分画物サンプルである。
 MSG-グルコース系で40℃*8日間の反応を行ったのち、反応液を室内に放置した。

 
 


(3)サンプルの色変化
 反応前、40℃*8日反応、室内放置1,030日の画像を写真1に示した。
 長期間の室内放置によりいずれのサンプルもメイラード反応が進み、強く着色した。
 室内放置液の遠心上澄を10倍希釈して比較すると、旧株、新株ともエタノール沈殿画分(エタノールに溶解せず、水に溶解する)を添加すると
 明瞭なメイラード反応抑制作用が認められた。



(4)OD増スペクトル

 図2に放置終了時のOD*希釈倍数から反応前のOD*希釈倍数を差し引いた値をOD増と定義し、その波長に対するスペクトルを示した。



(5)相対OD増スペクトル

 分画物無添加のOD増を100%としたときの相対OD増のスペクトルを図3に示した。


 (6)分画物添加量と相対OD増の関係
  波長420nm、300nm、270nmの相対OD増を分画物添加量に対してプロットしたのが、図4である。
 いずれも添加量50%までは相対OD増が低下し、100%では増加するか、ほぼ一定となる。
 沈殿画分が溶解画分よりメイラード反応抑制作用は大きく、新株の方が旧株よりも抑制作用はやや大きかった。


 (7)40℃*8日反応と室温*2.83年反応の比較
 図5は4種類の画分について40℃*8日反応と室温*2.83年反応の比較である。
 いずれの画分も室温*2.83年反応の方が分画物添加量による相対OD420nmの低下が大きい。
 また図6に示すように40℃*8日反応と室温2.83年反応の相対OD420nmには強い正の相関が認められた。


  

 (8)放置後のpH
 放置後のpHを図7に示した。
 図8に示すように放置後のpHと相対OD420nmには正の相関が認められた。

 (9)放置液の臭気
  放置液の臭気の状態を表1に示した。
 いずれもメイラード反応特有の焦げ臭がしたが、すべて芳香であった。
 また分画物添加濃度が増加するほど臭気は弱くなった。
 
(10)考察

 室温で2.83年と長期間放置することにより、黒砂糖酵母発酵液のエタノール分画物のメイラード反応抑制作用が明確に示された。
 メイラード抑制作用が強いのはエタノールに不溶で水に可溶の画分であった。

 40℃*8日間の結果と室温*2.83年間の結果には強い正の相関があることから、これ以外の実験でも相関はあると推定される。
 今までの実験(第129節)によれば、
 黒砂糖のパン酵母通気発酵液からの分画では①エタノール60vol%に可溶であり。②分画分子量1,000~3,500の画分のメイラード反応阻害作用が
 最も強かった。

 今後は黒砂糖を原料としこれを酵母だけでなく麹かびで発酵させることを研究し、アンチエイジング素材の実用化を進めていきたいと考えている。

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