260. 黒豆黒糖麹発酵3  2019年11月5日

(1)はじめに

 第252節で黒大豆きなこと黒砂糖の最適混合比率は8:2であることを述べた。
ここでは、その最適混合比率での発酵時間と乾燥固形分バランスおよびTPP(総ポリフェノール)含量の経過について実験を行った。


(2)実験方法

 図1と図2に実験方法を示す。
 原料として用いた「黒大豆きなこ」、「黒砂糖」および「種麹」は今までに使用したものと同一である。(第250節
 抽出にはエタノール濃度35%の「ホワイトリカー」を用いた。





(3)実験経過

 30℃でのインキュベーションの経過を写真1に示す。
 インキュベーション2日から培地表面は麹のコロニーで覆われた。


 発酵物は60℃で24hr乾燥した。その経過を写真2に示す。


 乾燥した発酵物は乳鉢で粉砕後、ホワイトリカー200mlと混合し3日間浸漬した。
その経過を写真3に示す。

 浸漬液は濾過して抽出濾液と抽出残渣に分離した。(写真4)
 抽出濾液は発酵2日目から明らかな暗色化が起こっている。
 

 抽出残渣は写真5に示すように、60℃で24hr乾燥し固形分重量を測定した。

 抽出濾液は写真6のようにホットプレートで10倍以上に濃縮後、60℃で18hr乾燥し固形分重量を測定した。


 抽出濾液を遠心分離した。ただし、沈降物は認められず、濾過で不溶物は除去されていたと考えられる。
遠心上澄を蒸留水で希釈してTPP分析に使用した。(写真7)


(4)実験結果
 
 ①発酵物の重量は発酵日数とともに図1のように減少した。
 この減少には水分の蒸発と基質の発酵による炭酸ガスとしてのロスが含まれる。
 ②発酵物は図2のように乾燥し、図3に発酵日数と乾燥固形分の関係を示した。
 乾燥固形分は発酵2日で大きく減少した。
 ③図4に総重量減と固形分減の経過を示した。
 総重量減は直線的に増加、固形分減は2日までほぼ直線的に増加し、それ以後はわずかに増加するのみであった。
 


 ④表1に固形分バランスの計算表を示し、計算結果を図5に示した。
 発酵ロス(基質の炭酸ガス、水蒸気としての飛散)は4日間の発酵で38%、抽出濾液への移行は58%、抽出残渣への残存は42%となった。
 発酵が進むにつれ抽出液への固形分移行率は上昇した。




 ⑤フォリン・チオカルト法のブランク(すなわち炭酸ナトリウム7.5*4/10=3%水溶液中)での紫外可視吸収スペクトルを図6に示した。
  発酵0,1日のピークは260nmにあるが、発酵2日以後のピークは280nmにあり、発酵が進むにつれ280nmのピークは増加した。

 ⑥抽出濾液のTPP含量は発酵日数とともに増加した。(図7)
  抽出濾液の固形分あたりのTPP含量も同様に発酵日数とともに増加した。(図8)
 ⑦抽出濾液のOD260nmとOD280nmは発酵日数とともに増加した。(図9)
  発酵0-1日ではOD260nm>OD280nmで、発酵2-4日ではOD260nm<OD280nmであった。(図9)
 ⑧抽出濾液のTPP濃度とOD260nm、OD280nmには図10のような相関が認められた。
  両ピークともポリフェノールに由来するピークと考えられるが、発酵2日前後では主たるポリフェノールの構造は変わっていると考えるべきである。

 ⑨抽出濾液の乾燥物を水に溶解し、その味を評価した。(表2)
  発酵0日は黒砂糖の甘味がするが、発酵1日では酸味に変わった。
  発酵2日以後は強い苦味を感じた。



(5)まとめ
 ①発酵時間は少なくとも2日は必要である。
 ②ホワイトリカーへの3日間浸漬でポリフェノールを抽出することができた。
 ③発酵が進むにつれポリフェノールの回収率が顕著に上昇(5~6倍)することを確認した。
 ④今後はスケールを上げて、一定量の抽出物を取得する。抽出物はあまりにも苦いので、どのように摂取しやすくするかを検討したい。


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