349.糖蜜発酵廃液の放置による脱色 2021年6月6日

 糖蜜を主原料にして酵母を培養し、酵母を回収した廃液をフラスコに入れて2019年5月20日から2021年4月29日まで室内の窓際に放置した。
その経過を写真1に示した。
放置開始時には別の実験で取得した芽胞菌のスラリーをシードとして添加した。
この芽胞菌に糖蜜色素を脱色する能力があるかもしれないと考えたからである。
結論を言うと、この芽胞菌の脱色作用は僅かで、放置中に自然に増殖したシアノバクテリアの脱色作用が顕著であった。



 図1に放置開始から70日目までの状態を示す。
 液の目視では脱色されているかどうかはわからない。
 70日以後はそのまま放置を続けた。


 図2は放置293日に液を濾過したときの状況を示す。
 液にはシアノバクテリアが繁殖しており、明らかに脱色されていた。
 シアノバクテリアは濾紙として使用したキッチンペーパーを通過するものが多かった。
 この濾液を引き続き放置した。


 図3は放置445日に液を濾過したときの状況を示す。
 この時も多くのシアノバクテリアが濾紙として使用したキッチンペーパーを通過した。
 この濾液を引き続き放置した。



 図4は放置750日に液を濾過したときの状況を示す。
 このとき、シアノバクテリアは大きなフロックを形成し、濾紙として使用したキッチンペーパーを通過することはなかった。
 本節での観察記録はここまでであるが、濾液の放置はさらに継続している。

 写真2は放置91日から293日までの外観記録である。
 放置によりシアノバクテリアフロックは沈降し、撹拌することによって均一に分散した。


 写真3は放置293日から445日までの外観記録である。
 写真2と同じく、放置によりシアノバクテリアフロックは沈降し、撹拌することによって均一に分散した。


 写真4は放置448日から754日までの外観記録である。
 放置511日までは撹拌によりシアノバクテリアは均一に分散したが、それ以後はフロックが大きく強固になり、撹拌しても分散しにくくなった。
放置649日目(2021年1月18日)からフロックの緑色が強くなり、増殖しているように見えた。


 
 図5に濾液の紫外可視吸収スペクトルを示す。



 図6には放置開始時を100%としたときの相対吸光度スペクトルを示す。



 図7に相対OD420nm、280nm、OD200nmの経過を示した。
 第Ⅰ期をOD200nm<OD280nm<OD420nmの時期とした。
 OD200nmが急激に減少するのは芽胞菌により糖や有機酸が消費され、カルボニル基が減少するためと考えられる。
 第Ⅱ期をOD420nm<OD200nm<OD280nmの時期とした。
 このころからシアノバクテリアの増殖がおこり、OD420nmが急速に減少した。
 第Ⅲ期をOD420nm<OD280nm<OD200nmの時期とした。
 いずれのODも減少速度は低下し、飽和に達した。
 放置750日の相対ODはOD420nm=1.5%、OD280nm=14%、OD200nm=19%であった。
 
 図8にpHの経過を示した。
 Ⅰ期のpH上昇は芽胞菌による有機酸の消費によるものと考えられる。
 Ⅱ期半ばまでのさらなるpH上昇はシアノバクテリアによる炭酸イオン、燐酸イオンなどアニオンの消費によるものと考えられる。
 Ⅱ期半ば以後のpH低下はシアノバクテリアの増殖が低下し炭酸イオン不足が解消されてためと考えられる。
 Ⅲ期では途中からpHの再上昇が起こった。再びシアノバクテリアの増殖が起こり、炭酸イオンの不足が起こったためと考えられる。
 Ⅱ期で増殖したシアノバクテリアとⅢ期で増殖したシアノバクテリアは異なる種類である可能性が高い。

 
 図9に悪臭強度の経過を示した。
 悪臭が発生したのは放置後40日までで、それ以後は全期間を通じて無臭に近かった。


    

 写真5に濾過したバイオフロックの顕微鏡画像を示した。
 放置293日では死滅した芽胞菌の残渣と球形のシアノバクテリアを確認した。
 放置445日では球形もしくはラグビーボール型のシアノバクテリアが主体で僅かに糸状の細胞が確認された。
 放置750日では糸状のシアノバクテリアと球形の細胞が同程度の比率になっていた。
 大きく強固なフロックができたのは糸状細胞によるものと考えられる。


 以上より糖蜜発酵廃液の脱色は自然に混入し増殖したシアノバクテリアの力が圧倒的に大きいと結論づけられる。

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