57. ラム酒 2015年3月25日

 まがりなりにも糖蜜色研究家を自称するならばラム酒について触れないわけにはいかないだろう。
ラム酒(以下ラムと言う)こそ糖蜜を原料にして造られた蒸留酒だからだ。
しかし私はウイスキー党であるので、今までラムを飲んだことがなかったのだ。
そこで、先日延岡市内の昔なじみのバーに行ったときにマスターにお願いしてラムを飲ませてもらった。(写真1)

 
 ラム酒は糖蜜からつくられるだけあって、確かに甘い芳香がする。
「なるほどこれがラムか」
ラムについての知識は写真2のような本で得たが、恥ずかしながら飲んだのは初めてである。
まずくはないが、やはり私はスコッチウイスキーの方が合っているようで、ラムを一杯も飲まないうちに交換してもらった。






 ラムの製造法は図1のとおりである。



 図1のように糖蜜を原料とする方法をインダストリアル(工業)製法といい、サトウキビジュースを原料とする方法をアグリコール(農業)製法という。
現在は97~98%のラムがインダストリアル製法で製造されている。
アグリコール製法はサトウキビ農場の近く出ないとできないが、インダストリアル製法は糖蜜を運送すればサトウキビ農場から遠く離れたところでも
使うことができる。
サトウキビジュースはあっというまに腐ってしまうが、糖蜜は腐ることはないのである。

 次に各種のラムのミニチュアボトルを通信販売で購入し比較してみた。(図2)
無色透明のNo.1(ホワイトラム)を除き、どれも嬉しくなるような糖蜜色である。

 
 図3に6種類のラムの紫外吸収スペクトルを示す。
色の主体はメラノイジンなので波長と吸光度の対数をプロットすると右下がりの直線となる。(これを一般吸収という)。
ただ、ラムの場合は波長280nm付近にピークが認められた。


 

 波長420nmの吸光度(OD420nm)と波長280nmの吸光度(OD280nm)をプロットすると、図4のように直線となった。
No.2だけがこの直線関係からはずれていた。この理由について、私は何もわからない。

 

 ラム発祥の地はカリブ海の島々であるとされている。
カリブ海の島々にサトウキビと製糖技術を持ち込んだのはヨーロッパ人であり、17世紀にはラムも製造されていたと言われている。
ラムは海の男たち、特に英国海軍やカリブの海賊たちにはこよなく愛された。
洋酒手帳(写真2)によれば映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」で海賊船の船長や船員がラムをあおるシーンに触発されたのか、
英国ではラムの大ブームが起こり、消費は30%も増えたそうである。

 ラムはまた世界史にも大きな影響を与えている。
 その一つは「糖蜜-ラム-黒人奴隷」の三角貿易である。
すなわち、カリブの島々でできた製糖副産物である糖蜜をアメリカに輸出、アメリカでラムを製造しアフリカに運ぶ。ラムはアフリカで黒人の購入代金となったのだ。
黒人はカリブの島々に運ばれサトウキビ栽培の労働力となったのだ。
現在の常識では考えられない非人道的なことであるが、この循環は奴隷貿易が廃止される1808年まで続いた。
 もう一つはアメリカ合衆国独立の引き金の一つになったことである。
1773年英国は自国植民地以外からの糖蜜の輸入を減らすため。自国植民地以外の糖蜜に法外な関税をかけたのだ。
アメリカはこれに反発して糖蜜の密輸が横行、さらには怒りが爆発してアメリカ独立戦争に発展したというのだ。

 ただのお酒ということなかれ、ラムには甘く苦い歴史がある。

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