42.特許における糖蜜分画例 2014年10月30日
(1)はじめに
図1に示す特許公報に糖蜜を膜やゲル濾過を使用して各種成分を分画した実施例が記載されており、大いに参考になった。
そこで、その実施例を私なりに整理したものをここに紹介することにする。
本節では、あくまで糖蜜成分の分画に絞って記述し、本特許の目的については記述しない。
また、分画方法の詳細についても記述しないので、必要であれば特許公報そのものを参照願いたい。
(2)粗糖とブラウンシュガーの成分比較
粗糖は分蜜糖であり、ブラウンシュガーは含蜜糖である。
従って、ブラウンシュガーの方が粗糖より糖蜜成分を多く含んでいる。
各種成分のブラウンシュガー/粗糖の平均値の比率を図2に比較した。
有効成分であり総フェノー類や酸化防止剤活性はブラウンシュガーが粗糖より5~6倍高い。
(3)製糖工程における中間体と製品の各種成分の比較
図3に示す中間体および製品の成分を表4に示した。
総フェノール、酸化防止剤活性は廃糖蜜中の濃度が最も高く、ついでミルマッド抽出物である。
トランス-アコニット酸は、廃糖蜜とシロップであった。
(4) 糖蜜の基本的分画方法
①膜濾過は マイクロ濾過(MF:Micro Filtration)、 限外濾過(UF:Ultra Filtration)、ナノ濾過(NF:Nano Filtration)が使用されている。
②ポリフェノールは疎水性樹脂(XAD)に吸着させ、70%エタノールで溶出している。
図6に示すように分画分子量500のNFでスクロースとグルコース+フルクトースをある程度分離できる。
またポリフェノールおよび酸化防止剤活性も分画分子量500のNFである程度は濃縮できる。
ただし、種々の分子量のポリフェノールが存在し、膜だけで完全に濃縮することは困難である。
(5)膜濾過による糖蜜成分の分画
MF、UF、NFに加えて逆浸透膜(RO:Reverse Osmosis)も使用している。
図8はMF前の固形分あたりの成分濃度を100%として各膜処理による相対濃度を比較したものである。
①総フェノール類、酸化防止活性は膜処理が進むにつれて低下していき、分画分子量500透過液では50%となる。
②フルコース、グルコースは分画分子量500透過液に濃縮される。
③スクロースは分画分子量500のNF膜を透過しにくい。
④灰分は分画分子量500糖化液に濃縮される。
⑤色度(OD420nm)は分画分子量3万透過液で15%に、分画分子量5百透過液で5%以下に減少する。
⑥トランス-アコニット酸は分画分子量500のNF膜を透過しにくい。
⑦Na、K、Clは分画分子量500透過液に濃縮される。
⑧Ca、Mgは分画分子量500透過液に濃縮されない。
⑨Feは分画分子量3万透過液で20-30%に分画分子量500透過液で5-10%に減少する。
⑩PO4、SO4は分画く分子量500のNF膜を透過しにくい。
図9に各膜の阻止係数(r)を示す。
r= 1-Cp/Cr
Cp:透過物中の検体の濃度、 Cr=各実験の終了時の未透過物中の検体の濃度
すなわち、rが1に近いほど透過しにくく、0に近いほど透過しやすいことになる。
(6)ゲル濾過による分画
着色物質は溶出の早いフラクション(分子量が大きい)に多い。
着色物質のピークとスクロースは完全に分離した。
ポリフェノールと酸化剤活性は着色度のピークと重なるもの(高分子)と重ならないもの(低分子)がある。
総フェノールと酸化防止剤活性は分子量150以上で広く分布する。
分子量150~500では糖濃度が高くなるため、総フェノールと酸化防止活性の濃度は低下する。
これらの濃度が高くなるのは糖が存在しない分子量60以上と分子量150以下の範囲である。
(7)同定されたポリフェノールの濃度
ポリフェノールを高濃度に濃縮するためにはXAD樹脂への吸着が必要で、膜による分画では濃縮することはできない。
(8)おわりに
抗酸化活性(この特許では酸化防止剤活性と表記)とポリフェノール量は常に同じ挙動をするようである。
従って糖蜜の抗酸化活性の由来はポリフェノールによるものと考えて良いだろう。
一方、着色物質と抗酸化活性およびポリフェノール量の挙動は完全には一致しない。
すなわち、着色していないポリフェノールも多く存在している。
糖蜜色研究家の私としては着色したポリフェノールに興味が向くが、用途の広さを考えると着色しないポリフェノールの分画研究もおろそかにできない。
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