54.塩化鉄(Ⅲ)と黒砂糖 2015年3月31日
(1)はじめに
鉱物の糖蜜色はほとんどの場合、3価の鉄イオンFe3+に由来する。
実験のために購入した試薬である塩化鉄(Ⅲ)・6水和物FeCl3・6H2Oは固まっていて、その外観は黒砂糖の様であった。
その写真を撮影して「糖蜜色コレクション」に加えようと思っていたのだが、シャーレの上に置いたこの物質を観察しているうちに、黒砂糖と混ぜてみたらどうなるだろうかという考えがよぎった。
ここでは、その観察結果を「糖蜜色コレクション」ではなく「研究日誌」に掲載することにした。
(2)塩化鉄(Ⅲ)と黒砂糖を空気中に放置したときの変化
①塩化鉄(Ⅲ)6水和物の一片をシャーレにいれて、蓋をせずに空気中に放置した。
②塩化鉄(Ⅲ)は空気中の水分を吸収し、自らが溶解して飽和水溶液となってシャーレ内に広がっていく。潮解現象である。
③放置開始後2日目(3月4日)に自家製黒砂糖の1片を塩化鉄(Ⅲ)の横に置いた。
④その後も塩化鉄(Ⅲ)は溶解して固体部分はどんどん小さくなっていった。一方黒砂糖片の大きさには見掛け上変化はなかった。
図1にシャーレ内容物の重量変化を示す。
① 3月4日に黒砂糖を置いた直後は重量増加が一時減少したが、3月7日からは再び重量増加が早くなり、重量増加は3月10日まで続いた。
② 3月11日から3月15日まで研究室を留守にしていたので記録はできなかったが、重量増加はこの間になかったので、潮解現象は飽和に達したと考えられる。
③ 3月17日に塩化鉄(Ⅲ)と黒砂糖の固体を溶解した。溶解操作で重量ロスが起こったが、その後再び重量の増加が始まった。
黒砂糖の溶解により潮解の飽和点が変化したものと考えられる。
④ しかし重量増加は3月21日に停止し、その後は減少に転じた。
写真2に塩化鉄(Ⅲ)と黒砂糖混合後の変化を示す。
混合後表面に黄色の泡状模様ができたが、放置時間の経過とともにしだいに小さくなっていった。
(3)塩化鉄(Ⅲ)と黒砂糖固体部表面のRGB変化
図2にRGBの変化を示す。
①塩化鉄(Ⅲ)、黒砂糖ともに初期のRGB値が高く。途中で低下し、また高くなるという傾向を示した。
撮影したときの明るさが一定でないので、ほとんど変化がないと見た方が良いかもしれない。
図3には初期(放置時)と全期間平均のRGBを比較した。
塩化鉄(Ⅲ)、黒砂糖ともに初期のRGB値が高く、平均値は若干低くなっている。
放置後の水分の吸収でわずかに暗い色になるのだと思う。
R>G>Bの傾向は変わらず、全期間を通じて塩化鉄(Ⅲ)、黒砂糖ともに正真正銘の糖蜜色である。
(4)黒砂糖水溶液と塩化鉄(Ⅲ)水溶液混合による色変化
写真3に示すように黒砂糖水溶液に塩化鉄(Ⅲ)の水溶液を添加すると着色する。
この着色は黒砂糖に含まれるフェノール性水酸基と鉄イオンの反応により起こり、ポリフェノールの検出法としても使用されている。
「食品の変色の化学.木村ら.光琳(1995)」によるとフラボノイドの水酸基の位置と呈色は以下のようになるとされている。
①5位:褐色 ②3位:紫褐色 ③5,7位:紫褐色 ④5,6位:緑色 ⑤3',4'位:緑色 ⑥3',4',5'位:暗青色 ⑦4';6;7位:無色
(5)黒砂糖水溶液と塩化鉄(Ⅲ)水溶液混合時の紫外可視吸収スペクトル
黒砂糖水溶液および水に塩化鉄(Ⅲ)を添加したときの紫外-可視吸収スペクトルを図4.図5にしめす。
いずれも写真3のサンプルを50倍に希釈して測定した。
塩化鉄無添加の時のODに対する各サンプルのOD増加スペクトルを図5に比較した。
可視部のODは明らかに黒砂糖>水であるが、紫外部のODには大きな差はなかった。
図7は塩化鉄(Ⅲ)の添加量とOD420nmの増加を黒砂糖水溶液と水についてプロットしたものである。
黒砂糖と水のOD差は塩化鉄(Ⅲ)2mlの添加で飽和している。
黒砂糖に含まれるポリフェノールは2ml以下の塩化鉄(Ⅲ)ですべて反応してしまうものと考えられる。
(5)おわりに
今回の記事は単に観察結果を羅列しただけで、その意味について考察にはいたらなかった。
私は鉄および鉄と腐植物質(メラノイジンも含む)に大きな関心を持っており、「ワンダムおじさんの糖蜜色研究」でも下記の1章を設けている。
今後とも無機物界の糖蜜色の主役である鉄と有機物界のそれである腐植物質についての研究を続けていきたい。
第5章 糖蜜色の鉄と腐植物質が生命を育んだ
5.1 鉄と腐植物質のかかわり
5.2 生物の共通祖先は鉄還元微生物か?
5.3 糖蜜色に染まった太古の海
5.4 ミトコンドリアがつくる活性酸素
5.5 太陽光線と酸素の大気に曝されて生きる
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