102. スエヒロタケで枯れたサトウキビ茎の熱水抽出物 2016年8月25日
(1)はじめに
今までサトウキビ茎に生えたスエヒロタケに関して以下の節に記載してきた。
87.スエヒロタケ 2016年4月24日
91. スエヒロタケが生えたサトウキビ茎の水浸漬 2016年6月14日
92. スエヒロタケが生えたサトウキビ茎の液体培養 2016年6月15日
93. スエヒロタケが生えたサトウキビ茎培養濾液の紫外可視吸収スペクトル 2016年6月18日
94. スエヒロタケ培養サトウキビ分画物のメイラード反応抑制 2016年6月22日
96. スエヒロタケ-サトウキビ分画物のオキシドールによる脱色 2016年7月6日
97. 強制倒伏させたサトウキビ 2016年7月7日
私はスエヒロタケで枯れたサトウキビの茎にはメイラード反応抑制成分が存在していることを期待して、その検討を続けている。
今回は97節の倒伏させたサトウキビの茎に生えたスエヒロタケの子実体とサトウキビの茎を採取して熱水抽出物を得て、MSG-グルコース系メイラード反応への熱水抽出物の影響を見てみた。
(2)熱水抽出物の取得
①スエヒロタケが生えたサトウキビ茎の採取(写真1)
②採取した茎からのスエヒロタケ子実体と茎の分離(写真2)
③子実体の水浸漬による洗浄(写真3)
④子実体の乾燥と粉砕(写真4)
⑤茎の洗浄、細断から乾燥まで(写真5)
⑥クッキングミルによる茎の破砕(写真6)
⑦熱水抽出と濃縮(写真7、図1)
子実体の熱水抽出濃縮液の子実体破砕物に対する重量比は5.3, サトウキビ茎の熱水抽出濃縮液の茎破砕物に対する比率は0.8であった。
(3)ドライバス60℃でのメイラード反応実験
①実験方法と経過
表1に示す条件でMSG-グルコース系でのメイラード反応実験を行った。
子実体抽出濃縮液に対し茎抽出濃縮液は原料由来成分が5.3/0.8=6.6倍濃縮されているため、茎抽出液は0.8/6.6=15%希釈液を使用した。
子実体サンプルの略号はFB:Fruit Body、 サトウキビ茎の略号はSS: Sugar cane Stark とした。
反応24hr、48hrの写真によれば、両抽出液ともメイラード反応抑制作用は認められない。
②反応開始前の紫外可視吸収スペクトル(図2)
反応液1.5mlを50mlに水で希釈し紫外可視吸収スペクトルを測定した。
いずれのサンプルの220nmに最大吸収を持ち、子実体(FB)は260nmに茎(SS)は270nmにピークを有した。
③48hr反応後の紫外可視吸収スペクトル(図3)
反応液1.5mlを50mlに希釈して紫外可視吸収スペクトルを測定し、反応前の値を差し引き、吸光度増のスペクトルを得た。
このときコントロールのサンプルを零して不注意により失ってしまった。
④サンプル添加量と吸光度増の関係(図4)
両サンプルとも210-220nmを除くすべての波長でサンプルの添加により吸光度は増加した。
従って両熱水抽出物とも60℃ではメイラード反応を促進した。
(4)45℃恒温槽でのメイラード反応
①条件と経過(表2)
ガラスサンプル瓶に60℃と同じ組成の液を20ml入れて、45℃の恒温槽にいれて観察した。
恒温槽の場合、サンプルの置く場所によって反応速度にバラツキがでるので、サンプル瓶はランダムに配置し、写真撮影ごとに配置を変更した。
45℃では両サンプルともメイラード反応が抑制された。
ただし、45℃では2日目あたりから腐敗臭と沈殿物が発生してきており、腐敗臭の強度は抽出物を添加したものの方がしないものより強かった。
(抽出物添加量によっては大きな差がなかった。)
②45℃*213hr反応後の紫外可視吸収スペクトル
反応液には白色の沈殿物があったので、これを濾過紙、濾液を50倍に希釈し紫外可視吸収スペクトルを測定した。
反応前の吸収スペクトルを差し引いた吸光度増スペクトルを図5に示した。
抽出物無添加に比較し、添加したものは明らかに吸光度増が抑制されている。
③サンプル添加量と相対吸光度増の関係
両抽出物とも添加量40%~80%で相対吸光度増は20%程度に抑制されている。
(5)まとめ
60℃では抽出物の添加によりメイラード反応は促進されたが、45℃では抑制されたことに注目したい。
ただし、無菌操作ができない私の実験室では、その抑制が雑菌の繁殖による影響である可能性がある。
考えられる可能性は以下の通り
①抽出物には60℃ではメイラード反応を促進し、45℃では抑制する成分を含んでいる。
②抽出物には微量栄養素を含むため、雑菌が増殖する。
雑菌がグルコースもしくはMSGを分解し、メイラード反応を起こしにくい物質に変えた。
雑菌の生成物はメイラード反応を抑制した。
例え、メイラード反応の抑制が雑菌の繁殖に由来するものであっても、非常に興味深い。
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