112.E60透析液のメイラード反応抑制作用 2016年12月2日
(1)はじめに
110節で黒砂糖酵母通気発酵液の60%エタノール抽出画分(E60と呼称する)のメイラード反応抑制作用が最も大きいことを記載した。
本節ではE60を透析膜(分画分子量3,500)で分画し、透析内液(高分子側)と透析外液(低分子側)のどちらの抑制作用が大きいかを検討した。
(2)実験手順と経過
図1に透析にともなう重量と固形分のバランスを写真1、写真2に透析の経過を示した。
透析外液は写真3のように煮沸濃縮し、次いで写真4のように60℃で乾燥した。
乾燥曲線を図2に示した。
(3)透析内液、外液の固形分とODの分布(図3)
固形分の約70%は分子量3,500以下であった。
一方、着色度OD420は約80%が分子量3,500以上であった。
スペクトルに肩の見られるOD330、OD270についても示したが、短波長になるほど分子量3,500への移行率が上昇した。
(4)メイラード反応実験方法
従来と同じく、MSG-グルコース系で40℃の水浴で10日間反応させた。
方法を図4に水浴温度の経過を図5に示した。
(5)反応液の色変化(写真5)
条件の中で水内100%とあるのは、MSG-グルコース基質のかわりに精製水を用い内液サンプルを100%添加したものである。同じく水外100%とあるのは精製水に外液サンプル100%を添加したものである。
(6) R,G,B,T値の変化 (図6)
T値=R+G+Bを見ると次のことが言える。
①透析内液
水内100%はほぼ一定である。
内0%(コントロール)は直線的に低下した。
内20%は若干低下。
内50%~100%は一定か、若干上昇した。
②透析外液
水外100%は若干上昇した。
外0%(コントロール)は直線的に低下した。
外液サンプルを添加したものも、低下したが低下の度合いは添加量が多いほど小さかった。
(7)反応前後の紫外可視吸収スペクトル
反応液を50倍に希釈して紫外可視吸収スペクトルを測定した。
図7に反応前の図8に反応後のスペクトルを示した。
図9に反応前後の吸光度増のスペクトルを示した。
基質を使用した反応では通常どおり300nm付近の吸収が増加している。
基質を精製水で置き換えた場合はこの吸収増は認められなかった。
内液+精製水の場合、反応後のODは低下し、外液+精製水の場合、反応後のODは増加した。
またサンプル0%の吸光度増のスペクトルを示した。
(8)サンプル添加量と着色度(OD420)増
OD420付近の吸光度増を透析前液、内液、外液について図11に示した。
透析前液は110節に記載した実験のものであり、透析内液、外液は本節の実験のものであり、コントロールの吸光度増が今回より低かった。
従って、透析前液と透析内液、外液を単純に比較してはいけないかもしれない。
しかし、敢えて相対OD420増を比較すると図12のようになる。
図12によるとメイラード反応抑制作用の強さは透析前液>透析内液>透析外液の順になる。
図13は透析前液、と基質の代わりに精製水を使用した内液、外液の330nmを中心とした詳細なスペクトルである。
前述のように、内液は反応後に吸光度は低下し、外液は吸光度が増加している。
従って、基質がない場合のOD増を補正する必要があるかもしれない。
その補正を行ったのが、図14である。
図14によるとメイラード反応抑制作用は外液>内液となる。
(9)330nm付近の肩の大きさ
110節でメイラード反応抑制作用のある成分は330nm付近に吸収があるのではないかと記載した。
図13を見ただけではどのサンプルの330nmの肩が大きいのか判別できないので、短波長になるにつれて上昇するODの度合いを図15に比較した。
これによれば、透析外液の肩が一番大きいということになる。
(10)まとめ
今回の実験だけで断言はできないが、メイラード反応抑制作用は透析外液(分子量3,500以下)の方が大きいのではないかと私は推定している。
外液画分をさらに分子量1,000の透析膜で分画し、メイラード反応抑制作用を比較する予定である。
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