76. 腐植物質とは何か 2016年1月3日

(1)はじめに

 2008年にロシアで開催された「第14回国際腐植物質学会」の報告書を2011年にインターネットで入手した。
 そのタイトルは以下のようである。
From Molecular Understanding to Innovative Applications of Humic Substances
Proceedings of the 14th International Meeting of the International Humic Substance Sociaty
Editor: Irina V. Perminova, Natalia A. Kulikova
September 14-19, 2008, Moscow-Saint Petersburg, Russia

 2012年の3月までに、この報告書の中で私が興味のある文献をリストアップしておいた。
今、それを読み返して、それらの文献の記載を元に「腐植物質とは何か」というテーマでまとめてみた。


(2)リストアップした興味ある文献



(3)腐植物質の特徴と利用
 
 表2に示すように腐植物質は多くの優れた特徴を持っている。
⑫にあるように有害な金属を無毒化するのは良いのであるが、腐植物質が低分子で溶解性の場合にはそのキレート作用で可溶化して有毒化することがある。
微量金属の中には生物に必須なものも多くあるので、生物が必要とする分だけ放出するような作用も有していると思う。
 このような多くの長所があるにもかかわらず、大々的に使用されているのは「土壌改良材」ぐらいである。
これから研究が進んで、役に立つ大きな用途が見つかることを期待したい。


(4)腐植物質の生成過程

 腐植物質がどのように生成するかについては多くの説がある。
私は図1のメイラード反応モデルを強く支持している。
すなわち、腐植物質とメラノイジンは同じものだと考えている。




(5)腐植物質の構造

 私は腐植物質とメラノイジンは同じ物質群であると考えている。
従って、糖蜜の主要色素成分であるメラノイジンにも腐植物質と同じく④⑤の法則が適用できると思う。
実際、熱帯のタンクに長期間保存すると OD254/OD400比、 E4/E6比が低下していく。
メラノイジンの高分子化が進んでいるのである。



(6)腐植物質の錯体形成

 これは土壌に生える植物だけでなく、糖蜜を原料とした液体培養される微生物にとっても極めて重要である。
糖蜜中に存在するメラノイジンは微生物に必要な微量金属を必要に応じて放出しているようである。
もし、微量金属とメラノイジンの結合が強すぎると、微生物の生育は著しく低下する。



(7)腐植物質の凝集

 糖蜜発酵廃液からメラノイジンを除去するのにFeCl3で凝集させる方法はきわめて有効であることを私自身経験している。




(8)腐植物質の微生物分解抵抗性

 腐植物質は微生物で分解されにくいが、分解する微生物についても報告されている。
私は高分子の腐植物質を低分子化する方法を考えているところでるが、④の脱色度を指標として実験するのが最も簡便であると思う。
 


(9)腐植物質の生物への吸収

 私は長い間、腐植物質は生物には利用さらないと思っていたが、今はその考え方を改めているところである。
高分子のフミン酸は吸収されにくいと思うので、吸収されて利用されるのは低分子のフルボ酸であろう。
 フルボ酸については以下の3つの書籍を勉強した。

①大自然の生命の力 フルボ酸、 田中賢治、飛太和陽子、 ニュートリエントライブラリー(株) (2015)
②環境・健康改善の特効薬「腐植土、フルボ酸」の基礎と応用、 鈴木邦威、(株)セルバ出版 (2011)
③フルボ酸で健康づくり、ディック・ミヤヤマ、 メディア アイランド (2012)




(10)おわりに

 B.バーグ/C.マクラルテイーの「森林生態系の落葉分解と腐植形成」で訳者の大園享司(おおそのたかし)氏はすばらしい「訳者あとがき」を書かれている。私はとても感動したので、大園氏の文章を引用させていただいて終わりにしたい。何も付け加えることはない。

「20世紀は物質生産の世紀であったが、21世紀は物質再利用(リサイクル)の世紀であるといわれる。 森林生態系は分解系の機能により資源のリサイクル機構を高度に発達させた自立的な系であり、分解系の機能解明は森林生態系の成り立ちだけでなく、地球環境の保全やこれからの人類の行き方を展望する上でも重要な研究分野と位置づけられる。

分解は植物組織の「死後の世界」での出来事に他ならないが、分解とは、その字面とは異なって、本来は生命を作り出す営みであることを原著の内容からも明らかであろう。

光合成と物質生産の役割を終え、枯死して足元に堆積する落葉に定着している、目に見えない微生物の働きが、目の前に広がる森林の営みを根底から支えているのである。

大袈裟かもしれないが、分解研究は人間に死を意識し直させるとともに、それによって実感をもって生の豊かさと大切さを感じさせてくれる研究と思える。

現代社会は生命を軽くさせ死を忘れさせる時代に思えてならない。だからこそ分解の事実を正確に解明し、その意味と価値とを新たに作り出していく仕事が大切な時期ではないかと考えている。」


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