84. 2016年の黒砂糖つくり 2 (2015年に刈り残した株から) 2016年4月12日
(1)刈り取ったサトウキビの場所と刈り取り日 (表1)
2015年4月までに刈り残した株から黒砂糖をつくった。
H4はすでに刈り取りを行い75節にその結果を記載した。
D1、G1、H1は2016年も刈り取りを行わず、今後どのように生育するかを観察することにした。
(2)刈り取り経過
刈り取りの経過を写真1,2,3に示した。
各写真の上欄は枯れ葉などのトラッシュを除去する前、中欄はショウトウ部を残しトラッシュを除去したもの、下欄は新しく生育した新株を刈り取り、旧株を残したものである。
なお、2015年の生育経過については下記を参照されたい。
51.節. 刈り残したサトウキビ
65.節. 刈らなかったサトウキビのその後(新畑)
(3) 旧株、新株の茎本数分布(表2)
刈り残した茎の本数と旧株の本数は当然同じでなければならないが、減少しているものと増加しているものがある。
減少したのは枯れてしまったものがあるからであり、増加したのは新株の成長が途中で止まり、旧株のような形状になったためと考えられる。
合計では刈り残し本数50本は旧株50本と一致した。
旧株に残っていた側枝は41本であったが、いずれも細く黒砂糖つくりには使用しなかった。
2015年に新たに芽を出し生育した新株は115本であり、旧株の2倍強であった。
(4) 黒砂糖つくりデータ一覧(表3)
新株からできたジュース量は多くの加熱濃縮用の鍋にはすべて入りきらないため2回に分けた。(Batch1,Batch2と呼称)
一方、旧株は枯れていない茎のみを黒砂糖つくりに用いた。(Batch3と呼称)
(5)Batch毎のジュースのBrixとpHの比較
Batch 3 (旧株)はBrix、pHとも新株より明らかに低かった。
Batch 1 と Batch 2を比較すると Batch2がBatch1よりBrix、pHともに若干低下した。
サトウキビそのものはほとんど変わらないはずであるから、絞ってから黒砂糖つくりまでの放置時間の差が影響している可能性がある。
(6)収量と収率の新株と旧株の比較
収量は図2に示す通り、洗浄茎、ジュース、黒砂糖のすべてで新株>>旧株であった。
収率は図3に示す通り、No.9を除き 新株>旧株であった。
No.9の旧株は外観上も丈夫なものが多かった。
(7) 清澄ジュースの色と黒砂糖の色(写真4、図4)
旧株の清澄ジュースの色は新株より暗色であった。
注目すべきは同じ新株でもBatch2の方がBatch1より暗色傾向にあったことである。。
この傾向は特に黒砂糖において顕著であり、明らかにBatch2がBatch1より暗色であった。
清澄ジュースのT値(R+G+B)と黒砂糖水溶液のOD420(後述)は図5のような相関が認められた。
(8)黒砂糖水溶液の紫外可視吸収スペクトル(図6)
新株、旧株とも270nm付近にピークがあり、 旧株からつくった黒砂糖には320nmにピークもしくは肩があることが特徴である。
これがポリフェノールであることを期待している。
(9)OD420、OD330、OD270の比較
可視領域における着色度の代表としてOD420をもちい、スペクトルにピークを示すOD330、OD270について比較した。
①OD420は新株においてはBatch2>Batch1であった。 旧株のOD420はその株がどこまで枯れかかっているかに起因すると推察される。
実際の旧株の茎を見てみてNo.9は新株とあまり変わらないほど健全であった。
②OD330は旧株>新株Batch2>新株Batch1の順であった。
③OD270は新株No.1が最も小さく、新株No2と旧株はときに順序が入れかわった。
④OD330/OD420の比率は旧株が新株より顕著に高かった。
⑤OD270/OD420の比率は新株、旧株によって差があるとは言えない。
(10)黒砂糖のOD420に影響を与える因子(図9)
Batch1とBatch2の黒砂糖のOD420の差が何によるかを考察した。
①濃縮時間(115℃に達するまでの時間)
濃縮中のメイラード反応が主要因であれば、濃縮時間とOD420は正の相関があるはすであるが、実際はむしろ負の相関がある。
従って濃縮時間は主要因ではない。
②ジュースのポリフェノールオキシダーゼを失活させるための加熱から濃縮を開始までの放置時間
正の相関がある。この放置時間は要因である可能性がある。
③ジュース搾りを開始してから加熱失活開始めでの放置時間
強い正の相関がある。ポリフェノールオキシダーゼを失活しないまま放置している時間の差が主要因である可能性がたかい。
43節「サトウキビジュースの変色」で述べたように、サトウキビジュースを未加熱のまま長時間放置してもジュースのOD420は増加せず、むしろ低下する。
このことより、ポリフェノールオキシダーゼは直接色素物質を生成するのではなく、無色の色素前駆体を生成し、その後の100℃以上の加熱によって色素が生成すると考えるのが妥当である。
今後、この仮説を証明するための実験を計画する。
(11)2016年の黒砂糖つくり実績での新株、旧株比較 (図10)
洗浄茎からの黒砂糖収率は新株が旧株の約2倍である。
ただし、旧株が健全なまま残っている場合には新株と同等の収率が出る。
黒砂糖収量は新株が圧倒的に優れており、黒砂糖の生産性向上のために旧株を残す必要はない。
しかし、旧株の黒砂糖には330nmに吸収を持つ成分が増加していることが興味深い。
昨年、今年と2年続けて刈り取らない株を残して観察を続けることとする。
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