447. MSGと複合調味料水溶液の放置 2023年11月1日
1964年の東京オリンピックのとき、家にテレビが鎮座した。
それまでは、山奥の田舎にはテレビを持っている家は少なかったが、オリンピックを観るために急にテレビを購入する家が増えたと思う。
アンテナは近くの山のテッペンに立てて、さらにブースターなるものをつけなければ映らなかった。
アンテナ線はおそらく300mはあっただろうか。
そのときテレビコマーシャルで「ミタス ミタスと言いました まる」という文句が非常に印象に残った。
ミタスというのは当時旭化成が製造販売していた複合調味料である。
確かミタスを買えば東京オリンピックの記念切手が当たるようなことも言っていたような気がする。
複合調味料というのは旨味物質であるMSGに同じく旨味物質であるIMPとGMPを添加したものだ。(表1)
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MSG単独またはIMP,GMP単独よりも両者を混合した方が相乗効果でより強い旨味を得ることができる。
その相乗効果を利用してつくられたのが複合調味料である。
現在もハイミー(味の素)、ミタス(富士食品)、いの一番(三菱商事ライフサイエンス)などが市販されている。
表2はアマゾンで購入し、それぞれを比較したものである。
「ミタス」はもともと旭化成で、「いの一番」は武田薬品で製造されていたものである。
私は1972年に鈴鹿高専を卒業し、旭化成に入社したが、最初の配属先はRNA(リボ核酸)を原料としIMPとGMPを製造する工場であった。
その後、原料のRNAを酵母から製造するための研究を経て、会社生活では糖蜜を原料としたMSGの製造と研究に長く従事してきた。
ミタスのコマーシャルを聴いてから8年か9年後にまさか旭化成でそれに関連する仕事をすることになろうとは、山奥の少年には考えても
いないことであった。
MSGとIMP,GMP(以後IGという)の製造をしていて思ったのは、製造工程においてIGはMSGに比較してはるかに微生物分解を受けやすい
ことであった。
そこで、このたびMSGと複合調味料の水溶液を室内に放置し、その経過を観察することにした。
写真2に放置経過の外観を示す。
MSG単独では、長く無色透明を維持するのに対し、IGの添加量が多いものは早期に白濁し、着色していくのがわかる。
図1に放置液のRGB変化を示した。
写真3は放置13日目に遠心分離して得た沈殿物の顕微鏡画像である。
MSG単独のNo.1はこの時点では沈殿物は認められなかった。
No.2とNo.4は長杆菌、No.3とNo.5は短杆菌が増殖していた。
50日放置後の湿菌体重量を図2に示した。
MSG単独(No.1)は極めて少なく、最も多かったのはIGを2.5%添加したNo.2であった。
IG8%のNo.3,No.4,No5は湿菌体量は多いが,No.2よりは少なかった。
図3には遠心上清pHを図4には遠心上清のECを示し、いずれもMSG単独(No1)が最も低かった。
図5に遠心上清の紫外可視吸収スペクトルを示した。
IGを添加した試料は核酸塩基に由来する250-260nmの吸収が放置とともに減少し、410nmの吸収が増加した。
図6に遠心上清ODの経過を示した。
図6-1 MSG単独ではOD410nmの増加はまったく起こらないが、IGを添加したものはOD420nmは大きく増加した。
図6-2 OD250nmの減少は速やかにおこる。核酸塩基が分解されていることを示唆している。
図6-2 OD210nm(主としてカルボニル期基)の吸収には大きな変化がなかった。
図7に示す方法で湿菌体の0.2%炭酸ナトリウム水溶液による熱水抽出を行った。
図8に菌体抽出液上清の紫外吸収スペクトルを示した。
菌体内RNAの250-260nmのピークを期待したが、存在しなかった。
50日の放置では菌体内RNAも分解されてしまったと考えられる。
図9は放置液上清と抽出液上清のOD250nmに強い正の相関があることをがあることを示した。
50日の放置では菌体の細胞膜が破壊され、菌体内外が同じ組成になっているものと考えられる。
図10は湿菌体量と抽出液上清のOD250nmの関係を示した。
図11に湿菌体重量と放置液上清のOD410nmの関係を示した。
MSG単独では菌体量、OD410nmともに極めて低いが、IGを添加したものは湿菌体量が多いほどOD410nmは低くなっている。
原因は分からないが、IGが色素物質になり菌体に移行する分が減ったのだと考える。
MSG水溶液単独では微生物による分解を受けにくいが、IGを添加すると細菌の増殖と色素生成のtめの分解が容易に
起こるといえる。
生成する色素は最初緑色を呈し、しだいに糖蜜色に変わって行く。
今後、この色素生成についてはもう少し検討してみたい。
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