75. サトウキビH4株の分別刈り取り  2015年12月5日

(1)はじめに
  サトウキビH4株は2015年始めに刈り取らずに残した株の中で最も良く成長したものである。
 図1に示す如く刈り取らずに残した株の茎を旧株1次茎と呼び、その1次株の節から新たに芽をだして成長した茎を旧株2次茎と呼ぶことにする。
また、2015年の春になって土壌から生えてきた茎を新株1次茎と呼ぶ。


 今回は上記3種の茎を分別して収穫し、それぞれから黒砂糖つくりを実施し、製造過程およびできあがった黒砂糖の性質を比較した。


(2)H4株の生育経過 (写真1)

 2013年5月21日に移植した苗は順調に生育し、2014年6月13日に刈り取った。(21. 1月から6月に刈り取ったサトウキビ
そのとき、すでに「ひこばえ」が多く発芽しており、これらが順調に生育し 2015年2月25日時点では最も全長の長い株となった。(51. 刈り残したサトウキビ
旧株の節からは気根のある2次茎が生長した。(65. 刈らなかったサトウキビのその後(新畑)
2次茎の多くは強風で落下したが、H4株では多くが落下せずに残っていた。(72.台風で落下した気根付きサトウキビ 写真6)



(3)刈り取り直前の状態(写真2)


(4)刈り取ったH4株のすべて(写真3)



(5)茎一本一本の外観
 *サトウキビの隣においてあるポールの長さは4.1mである。

 ①2次茎のある旧株(写真4-1,4-2)
 1次茎のショウトウ部は消失しており、最初あった白い蝋の粉は黒灰色に変色して残っているかまたは剥がれ落ちていた。
 2次茎の茎表面には白い蝋の粉が付着していた。
 


②2次茎のない旧株(写真5)
 No14とNO17は内部がすかすかの状態であり、枯れ死していた。



③刈り取り中に落下した2次茎(写真6)
 刈り取り中に落下したもので、その旧株1次茎に由来するかは不明のものである。


④新株1次株 (写真7-1,7-2)
 新株は太いが柔軟であった。
 旧株は硬くて切り取りにくいのに対し、新株は容易であった。
 茎表面は白い蝋で覆われていた。





(6)刈り取った各部位の重量(表1)

 表1でTrashは茎についている枯れ葉など、Topはショウトウ部、Stalkは茎である。


 ①総重量は旧株(2次茎も含む)>新株である。(図2-1)
 ②1本あたりの平均重量は新株>旧株である。(図2-2)
 ③Trash、Top、Stalkの重量分布は新株も旧株も同じである。(図2-3)
 ④旧株の1次、2次茎総重量は1次>2次である。特にStalkの重量は1次が2次の2.5倍である。(図3-1,3-2)
 ⑤旧株の1次茎はTopがなく、Trashも少ない。2次茎はTopがStalkの約50%もある。(図3-3)


 図4に示すように、旧株においては1次茎の重量が大きいほど2次茎の重量も大きくなる。
1次茎の重量が大きいのに2次茎の重量が小さい茎が3本あるが、 (1次茎 0.8kg付近1本、、 1.2kg付近2本)これらから刈り取り中に2次茎が落下したものと考えられる。


(7)茎の洗浄と搾汁

 写真8は搾汁にまわした茎のすべてである。
旧株1次茎の表面が黒いのに対し、旧株2次茎および新株の表面は白いことがわかる。



 写真9は表面を洗浄しやすいように、また搾汁しやすいように切断したものである。
旧株2次茎の気根部分は切断して廃棄した。

 写真10と11は洗浄した搾汁前の茎と搾汁後の茎の状態を示す。
旧株、新株とも表面の汚れや蝋を洗い取るとつややかな色になる。
旧株2次茎は旧株1次茎や新株1次茎よりも赤紫色(アントシアニン由来)が強い。



(8)ジュースの処理(写真12)

 ①絞ったジュースはすぐに加熱して5から10分沸騰させた。ポリフェノールオキシダーゼを失活させるためためと、混入した雑菌を殺すためである。
  沸騰時に灰汁を含んだ泡が発生するので、これを網で除去するのであるが、灰汁の量は旧株1次茎が旧株2次茎、新株1次茎に比べて著しく少なかった。
 ②沸騰後一夜放置して上澄み液を黒砂糖の製造に使用する。
 ③上澄み液は120℃まで煮詰めて固化させるが、このときも旧株1次茎の灰汁発生量は著しく少なかった。



(9)黒砂糖の固化(写真13)

 旧株2次茎は量が少なかったこともあり、パットに広がる前に固化してしまった。
色も旧株2次茎からの黒砂糖は白かった。
 3種の黒砂糖の味の差は明瞭にはわからなかった。(旧株1次株のみやや苦味が強いように感じた)
 



(10)黒砂糖製造時のデーター解析


①加熱前のジュースのBrixは旧株2次茎>新株1次茎>旧株1次茎であった。
②清澄ジュースのBrixは旧株2次茎>旧株1次茎>新株1次茎であった。
③新株のBrixは清澄前後で0.5%しか上昇していないのに対し、旧株は1次茎で4%、2次茎で2%も上昇している。
 旧株、新株とも1次茎の液量はほぼ同じで、加熱時間も変わらなかったので蒸発量の差ではないと考えられる。
 旧株では沈殿部の方にBrixの低い物質が除去されたために、相対的に上澄み液のBrixが上昇したのかもしれない。
④ジュースのpHには大きな差があり、旧株1次茎<旧株2次茎<新株1次茎であった。
 新株では清澄化前後のpHがほとんど変化しなかったの対し、旧株では清澄化により上昇した。
 このことからも、旧株と新株でジュースの成分に差があることはまちがいないと考えられる。



⑤洗浄茎に対する黒砂糖の収率は旧株1次茎と新株1次株がほぼ同じで、旧株2次茎は低かった。
⑥ジュース(清澄化前)に対する収率は3種類とも20%強で大きな差はなかった。


(11)1%黒砂糖水溶液の色(写真14)

 旧株2次茎の色は明らかに薄かった。旧株1次茎と新株1次株には差が認められなかった。



(12)黒砂糖水溶液の紫外可視吸収スペクトル

 ①旧株1次茎には280nmに明瞭なピークがある。旧株2次茎にも280nmに小さなピークがある。新株1次茎の280nmは肩となっている。
 ②旧株2次茎と新株1次茎は280nmより長波長では同じような吸光度を示すが、280nmより短波長では新株1次茎>旧株2次茎である。



 ③可視部の吸収は420nmでは新株1次茎=旧株1次茎>旧株2時茎であるが、それより長波長では新株1次茎>旧株1次茎>旧株2次茎となる。


 ④280nmのピークはポリフェノールに由来するのではないかと考えている。(17.茶とサトウキビ図7
  ポリフェノールは新株より旧株に多く含まれるのではないだろうか?


(13)まとめ

①旧株(1次茎、2次茎)ともにまともな黒砂糖をつくることができた。
②旧株1次茎のジュースは加熱時の灰汁の発生量が少なかった。
③旧株のジュースは加熱、沈降後にBrixの上昇とpHの上昇が見止まられた。新株のジュースはほとんど上昇しなかった。
④旧株と新株からつくった黒砂糖水溶液の紫外可視吸収スペクトルは明らかに異なっていた。
 旧株の黒砂糖には280nmに吸収ピークが認められた。(ポリフェノール由来か?)

②③④についてはH4株以外の刈り残したサトウキビについても比較検討を行っていきたい。

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