101. 黒砂糖酵母発酵液の紫外可視吸収スペクトル 2016年8月23日

(1)はじめに

 84節においてサトウキビの旧株と新株から黒砂糖をつくり、その水溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定した。
 旧株、新株からつくった黒砂糖には双方に270nm付近にピークがあり、旧株からつくったサトウキビには320nmにピークもしくは肩が認められた。
 本節では、これらの黒砂糖を酵母でアルコール発酵させて糖を除去した液の紫外可視吸収スペクトルがどのようになるかを検討した。
 また発酵濾液を蒸発乾固してからエタノールで沈殿画分と溶解画分に分け、それぞれの紫外可視吸収スペクトルも測定した。


(2)方法

①黒砂糖45gを水道水300mlに溶解し5分間煮沸した。このとき発生する澱を濾過して、濾液に煮沸水を添加して総重量を300gとした。(写真1)
 黒砂糖の濃度は15wt%となる。

②37℃まで冷却後、インスタントドライイースト1wt%を添加し室内に放置して36hr発酵させた。(写真2)


 
 ③発酵液はすぐに濾過して酵母を除去した。1日冷蔵庫に保存するとさらに酵母が沈降してくるのでこれを再濾過した。
濾液をホットプレートで濃縮し、60℃で乾燥した。
乾燥物にエタノール30mlを添加し十分混合後、12hr放置し沈殿物と溶解物に分離した。
エタノール沈殿物は60℃で乾燥し、乾燥した沈殿画分(飴状物)を得た。(写真3)


 ④エタノール溶解画分は3バッチ分を合わせて濾過し、濃縮、乾燥後、乾燥物として2%になるように水に溶解した。(写真4)
  旧株は濃縮中突沸によるロスがあった。
 
⑤エタノール沈殿画分も3バッチ分を合わせて乾燥物として2%になるように水で溶解した。
 溶解時に澱が発生したのでこれを濾過で除去した。

⑥取得した各画分の外観を写真6に示した。
 


(3)実験データ

 ①実験データ一覧を表1に示した。



 ②発酵中のpH(図1)とBrixの変化(図2)
 


③発酵濾液の固形分濃度(図3)
 固形分濃度は平均すると旧株で 1.73wt%、新株で1.90wt%であった。
 黒砂糖の固形分が90%と仮定すると発酵前の固形分は13.5wt%であるから、酵母により旧株で87%、新株で86%の固形分が除去されたことになる。
 全固形分に対する沈殿画分と溶解画分の比率は次のように計算された。
 旧株:溶解54%、沈殿46%
 新株:溶解60%、沈殿40%


 


(4)紫外可視吸光スペクトル
 
 ①発酵濾液の紫外可視吸収スペクトル
  冷蔵保存後再濾過した濾液の1.5mlを遠心分離し、その上清を50mlに溶解して紫外可視吸収スペクトルを測定した。
 新株のスペクトルはバッチにより大きな差があるのに対し、発酵濾液のスペクトルはほとんど同じであった。(図4)
 



 バッチ毎の比較を図5に行った。
 いずれも旧株には270nmと320nmにピークがあるが、新株のピークは270nmのみで320nmには見られなかった。
 これは発酵前の黒砂糖と同じである。
 
 ②エタノール分画物の紫外可視吸収スペクトル
  固形分2%水溶液を50倍希釈してスペクトルを測定した。(図6)
  1)旧株、新株とも沈殿画分の最大吸収波長は210nmであるのに対し溶解画分は200nmであった。 
  2)270nmのピーク
   旧株:沈殿画分、溶解画分とも明瞭なピークがある。
   新株:溶解画分には明瞭なピークがあるが、沈殿画分は肩でしかない。
  3)320nmのピーク
   旧株:沈殿画分、溶解画分ともピークに近い肩がある。
   新株:肩もない。
  4)可視部の吸収
   沈殿画分>溶解画分である。

 


(5)吸光度比率 270nm/420nm、 320nm/OD420nmの比較

 ①発酵濾液(図7)
 270nm/420nm、320nm/420nmともに旧株>新株である。

 

 ②エタノール分画物(図8)
 270nm/420nm:沈殿画分:旧株>新株、溶解画分:差はない
 320nm/420nm:沈殿画分:旧株>新株。溶解画分:旧株>新株
 
 

 ③黒砂糖水溶液(図9)
 吸光度の比率の値はエタノール沈殿画分と同レベルであり、発酵濾液およびエタノール溶解画分の半分でしかない。
酵母による発酵処理により270nm/420nm、OD320nm/420nmともに大きく上昇した。

 


(6)まとめ
 270nmと320nmの吸収がポリフェノールに由来すると考えると、酵母発酵処理によりその純度は上昇していると判断される。
またポリフェノールの含有率は黒砂糖と同じく、旧株>新株であると判断される。
今後、分画物(写真6)のMSG-グルコース系メイラード反応を抑制作用を実験したい。

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