105. 黒砂糖の酵母による通気発酵 2016年9月22日

(1)はじめに

 104節で黒砂糖の酵母によるアルコール発酵液のエタノール不溶画分にメイラード反応抑制作用があることを記載した。
 今後、もっと細かく分画してメイラード反応抑制作用を調べるためにある程度多量の発酵液濃縮物を取得する必要がある。
 今回は以下の方法で発酵液濃縮物を取得することにした。
 ①アルコール発酵でなく、通気発酵をおこなう。
  *アルコール発酵実験は日本の酒税法に違反するおそれがあるため。
 ②カビの付いた黒砂糖を原料に使用する。
  *カビの付いていない黒砂糖は食用として使用したいため。


(2)カビ付き黒砂糖の溶解とカビ菌糸体の分離 (写真1, 写真2)



(3)通気培養

 発酵槽としてはポリバケツを用い、これに水槽用のエアレーターで通気した。(写真3)
ドライイーストはアルコール発酵に使用したのと同じ物を用いた。液あたりの添加濃度はアルコール発酵の半分とした。

 発酵時の液面状態の経過を写真4に示す。8hr以降で発泡が多くなった。


  写真5に示す如く、発酵時間の経過とともに8hrごろまでは、白濁が増加し、それ以後一定になる。
 遠心分離した酵母の体積は4hrごろまで増加し、それ以後はほぼ一定である。
 糖源は十分にあるものの窒素源と燐源が黒砂糖に不足しているために、酵母の増殖は継続しない。
 
 

 発酵中の温度,pHおよびBrixの変化を図1に示す。
 5hrまでの温度上昇は発酵熱の増加に起因する。
 pHは6hrまで急激に下がり、その後ゆるやかに下がり、23hrでは上昇していた。
 Brixの低下も14hr以後はほとんどなかった。

 
 発酵前後の重量とBrixのバランスを図2に示す。
 発酵による重量減少は373g、Brixの減少は406gで近い値である。
 この程度の糖が炭酸ガスおよび水蒸気として除去されたと見られる。

 
 発酵前後の紫外可視吸収スペクトルを比較すると発酵により210nmより短波長の吸光度が減少し、220nm~340nmの吸光度が増加した。(図3)


(4)イーストの分離
 
 当実験室には大型の遠心分離機も真空濾過機もないので、自然沈降でイーストを沈ませ、上澄をサイホンで回収した。
1回目の沈降は発酵液をそのまま室温(29℃)で沈降させ、2回目は5分間煮沸して浮遊しているイーストを凝集させてから沈降させた。

 


(6)イースト分離上澄の加熱濃縮

 写真7および図4に示すように①ガスコンロ②ホットプレート③恒温槽と三段階に分けて加熱濃縮した。
 最終的に得られた濃縮液はペースト状であった。
 Brixの計算値は98.4%となった。(表1)
 
 


(7)おわりに
 
 カビ付き黒砂糖 780gから 濃縮ペースト95gを得た。回収率 12%であった。
 このペーストを冷蔵庫に保存し、さらなる分画を進めることとしたい。

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