110. 黒砂糖酵母通気発酵廃液エタノール分画物のメイラード反応抑制作用 2016年11月6日

(1)はじめに
 
 106節に記載した5種類のエタノール分画物についてMSG-グルコース系、40℃でのメイラード反応抑制作用があるかどうかを見る実験を行った。



(2)実験方法

 実験方法を図1に反応中の水浴温度を図2に示した。
 

   
  
 


(3)反応液のRGB解析

 写真1の垂直、水平の長方形で囲まれた部分のRGBを測定し、 R,G,BおよびT=R+G+Bの経過を図3,図4,図5に示した。
抽出物を添加しないサンプルはT値の減少が大きかったが、抽出画分はそれに比較して減少度合いは小さかった。


  


 


(4) 沈殿物(指標)の経過

 図6に示したようにすべてのサンプルで白色の軟らかい沈殿物が発生した。
 すべてのサンプルで腐敗臭は発生しなかった。
 すべてのサンプルに共通して、炊飯したときの匂いを感じたが、沈殿物が微生物菌体なのかサンプルから物理化学的に生成したものかはわからない。
 (当研究室に顕微鏡がないため確認できなかった。)
 図中 fは画分(fraction)の添加濃度を示す。

 
  反応10日目の最終沈殿量について図7および図8に比較した。
  エタノール濃度96%以外の画分はサンプル添加量とともに沈殿量は増加した。(図7)
  サンプル添加量50%と100%ではエタノール濃度が低いほど沈殿量は多かった。(図8)

  

 


(5)反応前と10日間反応後の紫外可視吸収スペクトル(図9,10,11,12,13)






(6) 反応前後の吸光度増のスペクトル(図14,15,16)



 


(7)相対吸光度増スペクトル
 
 分画物サンプルを添加しないときの反応前後の吸光度増を100%としたときの吸光度増相対値のスペクトルを図17に示した。
 相対吸光度増が最も小さくなる波長は以下のとおりであった。
 ①エタノール96%画分:400nm
 ②エタノール80%画分:400nm
 ③エタノール60%画分:410nm
 ④エタノール40%画分:420nm
 ⑤エタノール0%画分:420nm

 


(8)OD420nm増相対値の比較
 
 図18に示すように、いずれの分画サンプルも添加濃度とともに相対OD値は低下した。
 これより、すべての分画サンプルにメイラード反応抑制作用はあると言える。
 分画くサンプル間のメイラード反応抑制作用を定量的に比較するために、相対OD値が55%になる(すなわちメイラード反応抑制率が45%となる)
 サンプル添加濃度を求めた。
 図19より、メイラード反応抑制作用が最も強いのはエタノール濃度60%で抽出された画分であると言える。

  


(9)メイラード反応抑制活性と分画サンプルのODの相関

 各分画サンプルの紫外可視吸収スペクトルで肩が見られるのは270nmと330nm付近であった。
 そこでOD270、OD330と可視の吸光度の代表としてOD420を選び、相対OD420nm増の55%到達濃度との相関を見た。
 図20に示すようにいずれのODでもODが大きいサンプルほど、メイラード反応抑制作用は大きくなる。
 3種のODの中で最も相関係数が大きかったのはOD330であった。

 波長330nm前後のODとメイラード反応抑制活性との相関を図21に示した。
 最も相関係数が大きくなるのは330nmであり、ここに吸収ピークを持つ成分がメイラード反応抑制活性を有する可能性がある。


(10)まとめ

 黒砂糖をパン酵母で好気発酵させた発酵液を種々のエタノール濃度で抽出し、分画物のMSG-グルコース系(40℃)におけるメイラード反応抑制作用を見た。
その結果、すべての画分にメイラード反応抑制作用を認めた。もっとも大きな抑制作用があったのはエタノール濃度60%の画分であり、
100%添加(反応液中の固形分として2%*5/20=0.5%)で抑制率は90%を超えた。(図18参照)
 メイラード反応を抑制する黒砂糖中の成分は330nmに吸収を持つ色素である可能性が高いと推察した。
 次は、エタノール60%画分を透析し(分子量3,000)、メイラード反応抑制作用が高分子側にあるのか低分子側にあるのかを実験する予定である。

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