91. スエヒロタケが生えたサトウキビ茎の水浸漬 2016年6月14日

 (1)はじめに

  放置したサトウキビ茎でのスエヒロタケの発生について87節に記載した。
 そのとき、雨で茎が濡れた場合にスエヒロタケの子実体は元気になっているように見えた。
 そこで、写真1に示すように茎の一部を採取して、水で浸漬した場合としない場合にどのような変化が起こるかを観察した。



(2)水浸漬放置の経過写真

①2015年12月25日から2016年1月4日
 浸漬直後は茎は水に浮かんでいるが、放置日数とともに水を吸収して沈んでいく。
それとともに、水が黄褐色に着色してゆく。
水を交換すると、着色度の増加はゆるやかになった。


②2016年1月4日から1月14日

 この期間には、水を頻繁に交換した。
スエヒロタケ子実体に変化は認められなかった。


③2016年1月14日から4月20日

 1月14日に放置場所を日当たりの悪い場所から良い場所に変更した。
3月末まで、子実体にも水にも変化は認められなかったが、4月に入ってから水の着色が始まった。



④2016年4月20日から5月11日
 4月20日以後は水を交換せず、蒸発分を追加した。
水がさらに着色し、ノロが発生、茎の浸漬部分にもノロが付着していた。
しかし、空中部分の茎にはめだった変化は認められなかった。


(3)水部分のB/Rの変化

 水部分のRGBを測定しそのB/Rを図1にプロットした。B/Rが小さいほど水は黄色に着色していると言える。
図中部屋Aは日当たりの悪い部屋、部屋Bは日当たりの良い部屋を示す。
水の交換は6回実施し、4月20日以後は水を交換せず蒸発分を追加した。
 


 浸漬開始直後のB/R低下は、浸漬前に蓄積されていた色素が溶出したためと考えられる。
水置換を繰り返すうちに、B/Rは1.0で一定となり新たな色素の溶出は起こらなかった。
しかし、4月にはいると急激なB/Rの低下が起こった。
これは、4月にはいり気温上昇とともにスエヒロタケの菌糸体が浸漬された茎で増殖し、茎を分解して可溶性色素を生成したためではないかと推察する。


(4)4月21日以後の浸漬茎および水の状態

 浸漬茎の表面には粘性のあるノロが発生し、水にもノロが浮遊していた。
空気中の茎の子実体が成長するなのど変化は見られなかった。




(5)ノロの回収

 写真4上部は掻き取り前、下部は掻き取り後の茎である。回収したノロを写真5に示した。


 水に浮遊したノロは濾過により回収した。(写真6)
 茎表面および水から回収したノロを合わせて写真7に示した。




(6)ノロおよび濾液の凍結融解

 過去にマンネンタケ菌糸体の液体培養を実施したことがあるが、培養液を凍結融解するとマンネンタケ菌糸体が生成した多糖体が変性してスポンジ状に析出するという知見を得た。
もし、スエヒロタケも多糖体多糖体を生成しているのであれば、濾液を凍結融解すれば多糖体が析出するのではないかと考え、写真8の如き処理を行った。



 写真9はノロを水洗して再沈降させてものである。
 写真10は凍結融解した濾液には沈殿物が存在し、沈殿部分を水で懸濁し再沈降させたものである。
 写真10の右下の「沈殿物分離濾液」は沈殿物を含まない濾液である。


(7)濾液沈殿物とノロの乾燥

 写真11は回収した濾液沈殿物およびノロを乾燥したものである。
ノロはおそらくスエヒロタケ菌糸体を主体とする画分、液沈殿物はおそらくスエヒロタケ菌糸体が生成した多糖体を主体とする画分であろう。
また、写真10の「沈殿物分離濾液」にはスエヒロタケによって可溶化されたサトウキビの茎成分の分画であると考えられる。



(8)茎浸漬の続行

 5月11日のサンプリング後も水を入れ替えて浸漬を続行し観察を続けている。
5月11日から6月11日までは水の入れ替えも追加もせず、そのまま放置している。
菌糸体と考えられるノロは水中に増加し、水の黄色も増加している。
水が蒸発し終えるまでこのまま観察を続行することにした。


(9) 終わりに

 スエヒロタケが生えたサトウキビ茎を水に浸漬することにより、子実体が成長することを期待したが、そのような結果にはならなかった。
一方水浸漬部分の茎では気温の上昇とともに菌糸体の増殖と考えられる現象が観察され、菌糸体によるサトウキビ茎からの黄色色素の生成や多糖体の生成が起こっていると推察された。

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