398. 鰹節 2021年3月1日
研究日誌第341節で化学と工業誌の特集「地方名産品の化学」で沖縄の黒糖について記載されていたことを述べた。
本節でもまた。地方名産品の化学を参考にしたい。
その特集は「鰹節」で2008年12月号であった。
このころは、私はまだ現役でタイに駐在していた。
駐在中も化学と工業誌は毎月手元に送られてきて、いつも興味深く読んでいた。
文献1はその記事の部分的コピーである。
写真を交えて鹿児島県で行われている鰹節つくりが分かりやすく紹介されていた。
その製造法については、ここでは記載しない。
私が子供のころはどこの家にも鰹節の削り器があり、毎日のようにお手伝いで鰹節削りをしていたことを憶えている。
今は、スーパーマーケットで削る前の鰹節を見つけることは難しい。
写真1はネット通販で購入した鰹節で鹿児島県枕崎市産である。
鰹節の表面はカビで覆われていた。(写真2)
カビを包丁で掻き取ったのが写真3. さらに表面を削り取ったのが写真4である。
写真5はノコギリで半分に切断した鰹節の切断面である。
図1には鰹節表面と切断面のRGBを図2にはRGB%を示した。
表面のRGB%はR%>G%>B%でいずれも典型的な糖蜜色である。
表面を削るにつれG%の値が小さくなっていく。
切断面はG%が小さくB%が大きい。G%とB%はほとんど同じで紫がかった糖蜜色である。
写真6は掻き取ったカビ部分の顕微鏡写真である。
糖蜜色をした大きな粒子が乾燥した鰹本体でその周りにカビの胞子が付着している。
菌糸も見えるが、すでにほとんど分解しているようだ。
写真7は近所のスーパーマーケットで購入した削り節である。
これも鹿児島県産であった。
すでに削ってあるので料理に使いやすい。
そのRGBは鰹節表面より切断面に近い。
鰹節が日本料理の出汁に使用されるのは周知のとおりであるが、その主要旨味成分はイノシン酸ナトリウムである。
鰹節と同じく出汁をとるのに使われる昆布の旨味成分はグルタミン酸ナトリウム、椎茸のそれはグアニル酸ナトリウムである。(図3)
生きている鰹にはイノシン酸は僅かしか含まれていない。
鰹が活発に泳ぐためには多量のATP(アデノシン三燐酸)がエネルギーとして必要である。
ATPが分解してADP、AMPになるときに放出されるエネルギーが使われるのだ。
ATPを再生するために鰹はエラから酸素を取り入れ呼吸しているのである。
しかし、死んで呼吸が止まるとATPへの再生は起こらなくなり、AMPはアデニルデアミナーゼという酵素によりIMP(イノシン酸)になる。
さらに分解が進むと燐酸がはずれイノシンに、そしてリボースがはずれヒポキサンチンになってしまう。(図4)
図4の化合物の中で強い旨味があるのはイノシン酸だけだ。
鰹節というのはまさに旨味物質を閉じ込め安定に保存するためのすばらしい発明品だと思う。
私が旭化成に入社し、最初に配属されたのが調味料としてIMPとGMPを製造する工場であった。
工程の合理化でAMPをIMPに変換する技術開発を行ったことを鮮明に覚えている。
当時はAMPやIMPを簡単に分析するHPLCなどなく、分析方法は濾紙電気泳動法であった。
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