120. 自家製最終糖蜜 2017年2月7日

  最終糖蜜というのは、もうそれ以上砂糖の結晶が析出しなくなった糖蜜のことを言う。
 昔から廃糖蜜と呼ばれることが多いが、今は廃棄物ではなく発酵原料として需要が多く、決して昔のように安価ではないので廃糖蜜という言葉は適当ではないと思う。
 さて、この最終糖蜜、私設実験室でつくるのはそう簡単ではない。
 製糖工場では精製したサトウキビジュースを真空濃縮結晶缶で濃縮しながら、砂糖の結晶を析出させ、結晶を分離して糖蜜を得る。この操作を3回ほど繰り返すと、もはや砂糖の結晶が析出しない最終糖蜜が得られる。
 真空濃縮結晶缶を実験室に設置するのは、困難である。
  そこで、私はサトウキビシロップをビーカーにいれて蓋をせずに室温に放置し、少しずつ蒸発させながら砂糖の結晶を析出させる方法を用いることにした。
 すなわち、116節で述べた方法を繰り返すことにした。
 写真1は116節で得た1次糖蜜を放置して、2次湿結晶と2次糖蜜を得たときの様子である。
 
 各々の2次糖蜜を一つにまとめて、室温放置しては析出した結晶を分離する操作を繰り返した。
 その様子を写真2,3,4,5に示した。
 5次糖蜜で新たな結晶はほとんど析出しなくなり、5次糖蜜がこの方法での最終糖蜜と言える。

 
  
   
   図1と図2に各糖蜜と各湿結晶の重量変化を示した。

   
   
  
  図3に示すごとく5次糖蜜の発生率が著しく多くなり、これ以上繰り返しても結晶はほとんど析出せず糖蜜の発生率は100%になると推定される。
  
  

  5次糖蜜は粘性のある液体で写真5に示すように、黄金色である。
  
 写真6は5次糖蜜の少量をシャーレで乾燥したときのものである。 粘性が高いため、シャーレに広がることはない。
  
 写真7は得られた湿結晶を60℃で乾燥させたものである。分離回数が進むほどパサパサにはならずペースト状の糖蜜が残っている。
  

 自家製の5次糖蜜とタイの製糖工場で製造された実際の最終糖蜜を以下に比較した。

 ①20(w/v%)水溶液のBrix(図4)
  実際の最終糖蜜より10~15%低かった。

  

 ②20(w/v%)水溶液のpH(図5)
  実際の最終糖蜜と同程度の値であった。

  

 ③糖蜜の乾燥曲線(図6)
  写真6の方法で乾燥した。
  自家製5次糖蜜は実際の糖蜜より水分が蒸発しにくいと考える。
  Brixが低いので、固形分が多い(水分が少ない)ということはないと思う。

  

 ④紫外可視吸収スペクトル(図7)
  実際の糖蜜はスラッジが多いので20(w/v%)水溶液を遠心分離した上澄を希釈して測定した。
  自家製5次糖蜜にはスラッジはなく、そのまま希釈して測定した。
  実糖蜜に比較して5次糖蜜は著しく吸光度が低い。(色が薄い)
  全体としての吸収スペクトルのパターンは類似している。
  
  
  
  自家製5次糖蜜の色が薄い原因として次の点が考えられる。
  ①結晶化時に熱をまったくかけていない。
  ②洗浄した茎を用いている。(実際の製糖工場では枯れ葉などが混じっていること、焼きキビが用いられていること、茎は洗浄していない)

 

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