136.放置茎の黒色物質 2017年6月21日
(1)はじめに
第92節「スエヒロタケが生えたサトウキビ茎の液体培養」の写真4に示す「②茎残渣」を室内に約1年間放置してその変化を観察した。
放置日数の経過とともに茎表面に黒色物質の生成が確認され、その物質が何かを推定した。
(2)経過写真
写真1は茎残渣を洗面器に入れ、開放系で放置した時期のものである。(2016年6月6日から9月7日まで)
茎を分解する微生物の繁殖を期待したので、蒸発する水分を頻繁に添加しなければならなかった。
そこで、9月7日にサランラップで覆い、水分の蒸発を抑制することにした。
写真2と写真3はラッピング以後の状態である。
(3)重量変化と室温変化
図1に重量変化を示す。ラッピングなしの場合は水分の蒸発が激しく、水分量を一定にコントロールすることができなかった。
ラッピング後は水分の蒸発は抑制され、水分は1週間に1回程度、少量の補給ですんだ。重量は220gにコントロールした。
図2に室温の変化を示す。冷暖房のない部屋に放置したので季節による温度変化を示している。
(4)ラッピング以前の状態
表1に示す如く、頻繁に水をスプレーした。(水の量は記録していない。)
放置後約1週間は腐敗臭が発生したが、その後は無臭に近くなった。
もっとも重量が低くなった8月21日の水分を0%と仮定し、推定水分の変化を図3に示した。
写真4に示す如く、放置開始1週間後のオレンジ色のキノコ蛾発生したが、その後の水分の低下とともに消失し、のちに水分を添加しても再び発生することはなかった。
(5)ラッピング後の状態
ラッピング後は重量を常に220gに保持した。推定水分率は固形分基準で267%である。
重量を220gに維持するための添加水分量の累積値を図4に示す。気温の低い1月~2月は水の添加はほとんど不要であった。
(6)乾燥洗浄残渣と乾燥黒色物質の取得
図5に示す方法で乾燥洗浄残渣と乾燥黒色物質を分離した。
乾燥洗浄残渣と乾燥黒色物質の比率は81%:19%であった。(図6)
(7)腐敗していない芯側バガスの調製
対照サンプルとして新鮮なサトウキビから表皮部分を除去した芯側部分からジュースを搾り取ったバガスを図7の方法で調整した。
①芯側バガスは第82節「サトウキビ茎の芯側と皮側部分からの黒砂糖」でできたものである。
(8)乾燥粉末サンプル3種の調製
図8に示すようにA:芯側バガス、B:洗浄残渣、C:黒色物質の乾燥粉末サンプル3種を調製した。
(9)3種サンプルの炭酸ソーダ水溶液による抽出。
表2に示すように各サンプルを0%,0.5%,1%の炭酸ソーダ水溶液で抽出し、抽出濾液を得た。
(10)抽出濾液の紫外可視吸収スペクトル(図9)
①芯側バガス(茎内層)の抽出液は炭酸ソーダ濃度0%では吸光度は極めて低かったが、炭酸ソーダ濃度を上げるにつれて330-340nmにピークを持つ明瞭な吸収が現れた。
②洗浄残渣の抽出液も炭酸ソーダ0%では吸光度は低かったが、炭酸ソーダ濃度を上げるにつれて280-340nmに広いピークを持つ明瞭な吸収が現れた。
③黒色物質の抽出液は炭酸ソーダ0%でも強い吸収を有し、炭酸ソーダ濃度を上げるにつれて上昇した。スペクトルのパターンは洗浄残渣と同じであった。
(11)考察
写真5に示すように洗浄残渣はほとんど外部の皮部分しか残っておらず芯部分は消失している。
黒色部分は芯部分が微生物により分解され腐植化したもので、おそらく微生物と腐植物質の混合物であろう。(写真6)
顕微鏡がなく微生物の存在を確認できないので、写真7のように芯側バガス粉末と加熱濃縮前の黒色物質を混合して放置することにした。
シャーレ内で黒色物質が広がっていけば微生物の関与が証明できる。
芯側バガスの炭酸ソーダ抽出液の紫外可視吸収スペクトルはポリフェノールの存在を強く示唆している。
また黒色物質、洗浄残渣抽出液の紫外可視吸収スペクトルは完全な一般吸収ではなく280-340nmに広いピークを持っていることから、ポリフェノールを取り込んだ腐植物質ではないかと推定される。
研究日誌の最初のページに戻る