143.耐糖性酵母の液体培養 2017年8月9日
(1)はじめに
143節に記載した表面皮膜をシードとして黒砂糖のみを栄養源とした液体培地で培養を行い。
サトウキビ新株と旧株黒砂糖シロップに生えた耐糖性酵母を比較した。
(2)培地用黒砂糖水溶液の調製(写真1)
(3) シードの採取と移植(写真2)
(4)培養経過(写真3)
1日目までは無通気で静置したが、何の変化も認められなかったため1日経過後通気を開始した。
液量は500mlで一定になるよう水道水を添加した。
培養は完全に開放系で無菌操作は実施していない。
pHとBrixの低下は旧株が新株より早かった。(図1)
(5)培養液からの菌体分離(写真4)
①培養液濾過残渣は乾燥固形分として新株1.02g、旧株0.86gであった。
②濾液を遠心分離して回収した菌体は新株1.2ml、旧株1.6mlであった。
③濾液を遠心分離した軽液の固形分(60℃乾燥)は新株 10.2g、旧株5.0gであった。
(6)固形分バランス
①菌体への固形分移行率は新株:濾過残渣1.0%+遠心菌体0.3%=1.3%、旧株:濾過残渣0.8%+遠心菌体0.5%=1.3%tと合計では同じであった。
旧株は新株より濾過を通り抜けた小さな細胞が多いと言えよう。
②遠心軽液の固形分移行率は新株33.9%:旧株15.4%と大きく異なっている。
③揮発成分(炭酸ガス、アルコール、揮発性有機酸など)を計算すると新株70.8%:旧株89.5%となった。
④両株とも黒砂糖あたりのの菌体収率はわずか1.3%であり、大部分は揮発成分となって消失していた。
(6)顕微鏡写真
①遠心沈降物は新株(写真5)、旧株(写真6)とも球形の酵母であった。
②濾過残渣には球形の酵母以外に菌糸状の細胞、大きな円形組織が認められた。
菌糸状細胞、大きな円形組織は新株が旧株より顕著に多かった。これが新株の濾過残渣量が多かった理由であろう。
これらの組織が同じ酵母の形態変化か別種の微生物なのかはわからない。
③酵母細胞の大きさは写真9に示すように新株が旧株よりやや大きい。
しかし、シロップ皮膜に見られたような大きな差はなかった。
(7)遠心分離軽液の紫外可視吸収スペクトル(図2)
210nm付近のピーク,270nm付近のピークとも旧株>新株であった。
(8)まとめ
サトウキビ新株とサトウキビ旧株のサトウキビシロップの表面皮膜の酵母はその発酵速度の違いからも別種の酵母であると言える。
今回は黒砂糖のみを栄養成分と用いたので窒素とリン酸が不足し、酵母菌体は十分に生育していない。
近いうちに窒素、リン酸を十分に添加した液体培地での増殖を比較してみたい。
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