155.初期光合成生物の色 2017年12月12日
(1)はじめに
光合成をする植物の葉は緑であり、緑はクロロフィルから来ることを誰もが知っている。
しかし、地球上で最初に光合成をはじめた生物の色も緑だったのだろうか。
シアノバクテリアが酸素発生型の光合成を始める以前には大気中の酸素はほとんどなく、酸素からできるオゾン層もまったくなかった。
地表や界面には生物にとって有害な紫外線が降りそそいいでいたので、生物は放射線を遮ってくれる海のなかでしか存在できなかったとされている。
海の中から太陽が輝く空を見上げたとき、どんな色に見えたのだろう。
その色は、当時の①空の色②海の色③海の深さによって変化するであろう。
153節でシアノバクテリア出現以前の海の色について述べたが、その色は海の表面が反射する光によるものであった。
ここでは海の中から空を見上げたときの透過色についてシュミレーションを行った。
「海中の生物(このときは微生物)が海水を透過してくる光を利用するためには、微生物の色はその透過色の補色である。」という仮説をもとに初期光合成生物の色を推定した。
(2)透過色の測定
①海水の色モデル
写真1の3種の水溶液をモデルとした。
当時の海水は塩化鉄Ⅱを溶解しており黄緑色をしていると推定した。ただし、塩化鉄Ⅱ水溶液は空気中の酸素によってすぐに黄色に変色してしまうので、水彩絵具で黄緑色(塩化鉄Ⅱ結晶に近い色)に着色した液も準備した。
②透過色の撮影方法
写真2に示すようにLEDライトにペーパータオルをかぶせ、光の強さを弱めた。当時の空の色は鮮やかなオレンジ色ではなく
淡いオレンジ色と書かれた文献が多かったからである。
LEDライトとペーパータオルの間に色フィルターを置き、その上にモデル液を入れた100mlメスシリンダーを乗せ、
メスシリンダーの真上から写真撮影を行った。
③空の色モデル
当時の空の色はオレンジ色という情報が多かったが、中にはピンク色という情報もあたったためオレンジフィルターに加え、ピンクフィルターおよび
オレンジとピンクのフィルターを2枚重ねの条件も実施した。
(3)透過色撮影結果
透過色撮影結果を写真3に示す。写真中央部のRGB値を測定した。
(4)水の吸光度
水の相対吸光度を図1に示す。
この図よりRの吸光度を100%、Gの吸光度を10%, Bも吸光度を1%と仮定した。
水深が大きくなるほど、赤い光が吸収され透過色は緑と青を帯びるようになる。
(5)透過色シュミレーション結果
図2に条件を変えたときの透過色のRGBを示し、表1に色見本を示した。
オレンジ、ピンクのフィルターがある条件では深度が浅いときは黄色~オレンジ色、深くなると緑色になる。
(6)透過色の補色のシュミレーション結果
図3に条件を変えたときの透過色の補色のRGBを示し、表2にその色見本を示した。
オレンジ、ピンクのフィルターがある条件では深度の浅いところでは青、深いところでは赤紫~ピンクとなった。
(7)初期の光合成微生物の色
空の色、海の色、深度に応じてあるべき光合成微生物の色は表3のようになる。
いずれにせよ、現在の植物の緑はあり得ない。
クロロフィルは緑色であるが、光合成細菌のもつバクテリオクロロフィルの溶液の色は淡青紫だそうである。
相対深度30~50%のところ色が淡青紫に相当する。
シアノバクテリアはシアノ-がついているとおりシアン色のものもいるし、その色はフィコシアニンという色素に由来する。
図4はシアノバクテリアの一種であるスピルリナから抽出された色素である。
図5は著書追加資料に示した紅色細菌である。
(8)終わりに
初期の光合成(微)生物の色は青から赤紫であったと推定した。
今も昔も同じであるが赤色光の届かない海中は緑色の世界である、緑色の中でそれと同じ緑色のクロロフィルを持つと言うことは効率が著しく悪い。
それでも、酸素発生型の光合成を行うためにはクロロフィルが必要不可欠で、それがたまたま緑色をしていただけではないかと思う。
浅い海では青色の色素が光をとらえてそれを緑色のクロロフィルに渡していたのだろう。それがシアノバクテリアである。
2018年7月15日追加
7月10日にオーストラリアの科学者がサハラ砂漠にあったシアノバクテリアの化石から世界最古のピンク色色素を発見したというニュースが流れた。
ANU scientists discover the world’s oldest colours