164. サトウキビの凍結障害と黒砂糖  2018年2月21日

(1)今期の黒砂糖造りの難しさ

 今期は黒砂糖造りが困難をきわめた。
 シロップの最終煮詰めで、1回で上手くいったのは最初のNo.1(12月18日刈り取り分)だけで、それ以外は再生煮詰め
が必要であった。
 No.6(2月12日刈り取り分)にいたっては再生煮詰めでもすべて飴状になってしまった。
 表1では黒砂糖のできばえを以下のように評価してスコアを計算した。
 ①1回煮詰めでブロックにできた場合:100点
 ②2回煮つめでブロックにできた場合:80点
 ③飴状になった場合:0点
 ④飴とブロックが混在した場合:その外観に応じて30点~70点
 


 


 図1に示すように刈り取り日が遅くなるにつれてスコアは低下した。
 前節に示したように12月度の低温がきいているのではないかと考えられた。
 また図2では切断した茎を搾汁までの室内放置時間とスコアの関係を示した。
 放置時間が長い場合はスコアが低下した。
 従来は刈り取り日によっても茎の放置時間によっても黒砂糖の状態が大きく変わることはなかった。
 おそらく、今期は熟成後に凍結するほどの低温に曝されたために、サトウキビジュースの組成が変化しスクロースが析出しにくくなり、ブロック状黒砂糖ができにくくなったものと考えられる。


 

 以下に黒砂糖No.4~No.5について黒砂糖造りの経過を詳述する。


(2)黒砂糖造りNo.4

 刈り取りから濃縮までの過程は160節に示した。
 煮詰め以後の状態を写真1から写真3に示した。
 BatchAだけが飴状となりBatchBとBatchCはブロック状となった。
 BatchAはBatchB,Cに比較してシロップ量が著しく少なかった。

 
  
 
  表2に固化時の重量を示した。
  BatchAは260gとBatchBの820g、BatchCの1170gに比較して著しく少ない。
  
 煮詰め時の液量が少ない場合、ボウルから液が溢れにくいので早く温度が上がる。
 一方、液量が多い場合は,液が溢れないように火を弱めながらゆっくりと温度を上げる必要がある。
 ブロック状黒砂糖を造るためには単に一定温度まで上げるだけではだめで、その昇温速度が重要ではないかと考えた。
 そこで次回は煮詰め前のシロップを3等分して一定液量で煮詰めることにした。


(3)黒砂糖造り No.5

 サトウキビの刈り取りから清澄ジュースの濃縮までの経過を写真4~7に示した。
 
 
 
 
 
 今回は煮詰め前の液量を一定にして煮詰めを行った。
 しかしながら写真8に示すように一発でブロック状になったのはBatch B だけであった。

 
  Batch A と Batch Cの再生煮詰めの経過を写真9に示す。
 再生煮詰めでは極めて良好なブロック状の黒砂糖を得ることができた。(写真10)

  
  

 図3には洗浄茎からブロック状黒砂糖が得られるまでの手順と重量変化を示した。
  

  今回、煮詰め液量を一定にしたにもかかわらず、なぜBatch B だけしか一発でブロック化できなかったのだろうか。
 煮詰め時の温度変化を比較してみると110℃以後の昇温速度が違っていた。
 Batch Bだけが昇温速度がゆっくりであった。(図4,図5)また冷却速度はBatch BはBatch AとCの中間であった。
 110℃以上での昇温をゆっくりすることがよさそうである。
 再煮詰めは最高到達温度や昇温速度にかかわらず、目視で発泡が治まり、粘度が出てきたところで停止すれば容易にブロック状黒砂糖を得ることができた。(図7)
 煮詰め1回目の難しさと再生煮詰めの容易さは何に起因するのであろうか。
 

  
  
  


(4)黒砂糖造り No.6

 これが今期最後の黒砂糖つくりであるので、なんとしても成功させたかった。
 煮詰め時の液量を一定とし、かつ110℃以上の昇温時間をNo.5のBatch B と同じにすることで、今度こそ1回目の煮詰めで3バッチともブロック化させることをめざした。

 サトウキビ刈り取り時の気温は低く、サトウキビ畑には霜柱ができていた。
 
  写真12~15にサトウキビの刈り取りから濃縮までの経過を示した。
 今回、スケジュールの都合上、洗浄した茎を16hr間室内に放置してから搾汁を行った。

  
  
  
  
  必ず成功すると信じて実施した煮詰めであったが、完全に予想に反し3バッチとも飴状となった。(写真16,17)
  
    

 さらに驚いたことに、再生煮詰めでもブロック状の黒砂糖を造ることができなかった。

 Batch Aはブロックと飴が混合した状態。 Batch B は完全に飴であった。 Batch C は 白砂糖を添加して再煮詰めを行ったにもかかわらず完全に飴であった。(写真18,図8))
 
   


 今回110℃から冷却開始までの昇温時間はNo.5 Batch B と同じであった。 (図9,図10)

  

  再生煮詰めの所要時間は図11に示すようにバラバラになった。
  正常にブロック化する場合は冷却するとスクロースが析出し表面がザラザラになるのだが、今回は冷却しても常にテカテカに光っていた。
  そこで、Batch B と Batch C では冷却後、まだ煮詰め不足と判断し、再加熱を行った。
  しかし、再濃縮の効果はまったくなかった。

  

 写真19にボウルからパットに移すときの状況を示す。
 ほとんどの液を移し終わって最後になると通常はボウル内壁で固化がはじまり流動性がなくなるのであるが、
 今回は長く流動性を維持し薄膜状になって落下した。
 
 得られた飴状黒砂糖の味は苦味はほとんどなく、ブロック状の黒砂糖と同じであった。
 従って煮詰め過ぎによる飴状化ではない。
 ジュースにスクロースの析出を阻害する物質が存在していると考えるのが妥当である。


(5) サトウキビの凍結障害により生成する物質

 図12の引用文献にはアメリカ、ルイジアナ州でのサトウキビの凍結障害の研究結果が記載されている。
 文献では種々のサトウキビ株について研究されているが、ここでは最も凍結障害の大きかったTucCp77-42株についてジュース中の糖成分の変化について示した。
 スクロースは日数とともに減少し、フルクトース、グルコース、デキストラン、マンニトール、ロイクロースが増加している。
 

 このような成分変化の原因は凍結により傷ついたサトウキビに乳酸菌「ロイコノストック・メセントロイデス」が増殖するためであるとされている。

 
 菌の増殖のためには凍結障害の後にある程度の高い温度になることが必要である。
 前節で12月の最高気温-最低気温差が大きいほどBrixの低下が大きかったこと。
 切断した茎を室内で長く放置するとブロック状黒砂糖ができなくなることは、菌の増殖説と矛盾しない。
 黒砂糖造りにおいてスクロースの析出を阻害する成分はおそらく図13で示された物質の中にあると考えられる。
 私の実験室ではこれらの成分を分析することはできないが、保存してある黒砂糖の物性は今後、比較してみようと思う。


 研究日誌の目次に戻る