185. クロレラ培養におよぼすMSGの効果 2018年7月22日

(1)クロロフィル生合成の出発物質としてのグルタミン酸

  私は会社生活の多くの部分をグルタミン酸発酵の仕事に携わってきた。
 グルタミン酸の大きな用途はもちろん旨味調味料としてのMSGであるが、グルタミン酸は以下のような生理作用を持つ。
 (栗原賢三ら、グルタミン酸の科学、講談社サイエンティフィック,2000年、124ページ,表5.3)
 ①エネルギー源
 ②タンパク合成の基質
 ③グルタミンの前駆物質
 ④窒素の輸送(グルタミン)
 ⑤興奮性神経伝達物質
  (抑制性神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)の前駆体)
 ⑥ポリグルタミン酸と細胞内シグナル伝達
 ⑦グルタミン酸のδ-カルボキシル化
 ⑧グルタチオン合成の基質
 ⑨N-アセチルグルタミン酸の前駆体
 ⑩酵素の活性部位
 ⑪グルタミナーゼ反応の抑制
 ⑫クエン酸(TCA)回路の中間代謝物質
 ⑬腸粘膜のエネルギー源
 
 私はこれらに加えて、グルタミン酸は高等植物やクロレラなどの微細藻類の5-アミノレブリン酸の前駆体であることに注目している。
 5-アミノレブリン酸はクロロフィルやヘムの骨格をなすポリフィリン生合成の前駆体である。
 図1に示すように動物や細菌などでは5-アミノレブリン酸はコハク酸とグリシンから合成されるが、高等植物やクロレラなどではグルタミン酸から合成される。



 そこでMSGがクロレラ培養に促進的に働くかどうかを実験することにした。


(2)実験方法

 実験方法と実験水準を図2と写真1に示す。
 ハイポネックスを基本栄養源とし、これにMSG、NaCl および MSGとNaClの混合物を添加した。

 
 


(3)実験結果
 
 写真2に液の写真撮影結果を表1にpH記録を、表2にOD655(クロレラの増殖にともなう濁度)を示した。

 

 図3にpHの経過を示す。
 pHは日数とともに上昇し3から4日がピークとなりその後低下した。
 別の通気実験ではpHの上昇はほとんど起こらないところから、pHの上昇は空気からの炭酸ガス供給よりよりクロレラによる消費が上回るときにおこると考えられる。
 すなわち、無通気下でのpH上昇はクロレラの炭酸ガス消費活性を示していると考えて良い。

 
 OD655の経過を図4に示した。
 これは、クロレラ細胞濃度に比例すると考えて良い。
 
  


 培養中の最大pHと最大OD655を添加物の濃度に対して図5と図6にプロットした。
 これよりMSGおよびMSG+NaClの混合物にはクロレラの増殖を促進する効果が認められた。
 NaClはこの濃度範囲では少なくとも増殖阻害作用はないと言える。
 


(4)まとめ

 MSGおよびMSGとNaClの混合物にはクロレラの増殖促進効果が認められた。
 MSGがクロロフィル生合成の前駆体となっているからかもしれない。


 研究日誌の目次に戻る