514.松腐朽株粉砕残渣の栄養源添加懸濁液の放置 2025年5月28日
本節は第453節の続きである。
松腐朽株粉砕残渣懸濁液の放置経過を写真1~写真13に示した。
写真1.(2023年12月5日~2024年1月9日)
グルコースとハイポネックスを添加したNo.4の液面に微生物フィルムが形成され上清の色度は
4サンプルのうちで最も低くなった。
写真2(2024年1月6日~2024年2月20日)
No.4だけが大きく変化した。残渣は沈降しにくくなり上清の色度が上昇した。
写真3. (2024年2月27日~2024年4月2日)グルコースのみを添加したNo.2の沈降容積が増加し、
振とうしても分散しなくなった。
No.4の上清は色度を増し、液面境界の瓶内壁にシアノバクテリアのフィルムが形成された。
写真4.(2024年4月9日~2024年5月14日) ハイポネックスのみを添加したNo.3の液面境界の瓶内壁に
シアノバクテリアのフィルムが形成された。
No.4の瓶内壁シアノバクテリアのフィルムは見えなくなり、上清の色度はさらに増加した。
写真5.(2024年5月21日~2024年6月25日)
No.3の瓶内壁のシアノバクテリアフィルムがさらに大きくなった。
No.4上清の色度がさらに増し沈澱との区別が着きにくくなった。
写真6.(2024年7月2日~2024年8月6日)
No.3の上清がシアノバクテリアで緑化してきた。
2024年7月23日に栄養源を追加した。
写真7(2024年8月13日~2024年9月17日)
No3.上清の色度が上昇し、No.4は低下し始めた。
写真8.(2024年9月24日~2024年10月29日)
No.3の上清は暗色化がさらに進行し、沈澱との区別がつかなくなった。
No.4の上清の色度が低下し、沈澱との区別がはっきりとつくようになった。
写真9.(2024年11月5日~2024年12月11日)
大きな変化なし。
写真10.(2024年12月17日~2025年1月21日)
大きな変化なし。
写真11.(2025年1月28日~2025年3月4日)
大きな変化なし。
写真12.(2025年3月11日~2025年5月13日)
大きな変化なし。
写真13. (2025年4月22日~5月13日)
大きな変化が見られなくなったので2025年5月17日に放置を終了した。
放置中、主として蒸発による重量減少は水道水の添加で補填した。
写真1は放置最終日の放置場所の状況である。
累積水添加量はサンプル2と3が大きく,No1とNo.4が低くなっている。
これはおそらく屋外の建物による太陽光の遮蔽効果によるものではないかと考えている。
図1に水添加前の重量変化を、図2に水添加後の重量変化を図3に累積水添加量の経過を示した。
表1は放置液上清部の画像経過である。
図4は表1から計算した上清部のRGB経過を示した。
図5は放置液上清部のT値(R+G+B)の経過である。
①No.1はゆるやかに上昇、すなわち明色化していった。
②No.2は2024年の春に急激に明色化したがその後No.1と同程度の明度に戻った。
③No.3は2024年の夏から急激に暗色化が進み、2025年春も強い暗色を維持していた。
④No.4は放置開始直後に明色化したものの、すぐに急激な暗色化が進んだ。
しかし2024年の夏から明色化に切り替わり、最終的にはNo.1,No2と同程度の明るさとなった。
写真15は最終懸濁液をメスシリンダーに入れ静置したときの沈降経過である。
①No.2は懸濁することが難しく沈澱はすぐに沈降した。
②No.1とNo.4は一夜静置すれば完全に沈降した。
③No.3は一夜静置しても上清と沈澱の境界ははっきりしなかった。
写真16は沈降終了液を再懸濁し沪過したときの状態である。
写真17は沪液を遠心分離したときの状態である。
遠心沈澱はNo.1は緑色、No2.3.4は糖蜜色であった。
遠心上清はNo.3だけが暗色の糖蜜色であり、残りは淡い黄色であった。
表2は沪液と沪過残渣の重量、図6は湿沪過残渣の重量比率である。
沪過残渣重量比率は No.2(グルコースのみ)>> No.1 (栄養源なし)>NO.3(ハイポネックスのみ)
>No.4(グルコース+ハイポネックス)の順であった。
図7に遠心上清の紫外吸収スペクトルを示した。
いずれも200nm付近に極大吸収があり、ハイポネックスを添加したものは吸収が大きく、グルコースの添加により小さくなった。
表3に最終放置液上清のpH,電気伝導度、OD200nmを示し、それぞれ図8、図9、図10にグラフ化して比較した。
①沪液pHはNo.3のみが6を超え、それ以外は4.2~4.4と低かった。
②電気伝導度は当然ながらハイポネックスを添加したサンプルが高かった。
グルコースの添加は電気伝導度を低下させた。
③OD200nmも電気伝導度と同じくハイポネックスを添加したサンプルが高く、グルコースの添加はOD200nmを
低下させた。
図11に示すように沪液の電気伝導度とOD200nmには強い正の相関があった。
写真17に沪液の遠心分離沈澱の顕微鏡画像を示した。
No.1は球状のシアノバクテリアが主体であり、No.2No.3は桿状の細菌が主体であった。
No.4は球状のシアノバクテリアと長杆菌(もしくは糸状菌の分生子)が混在していた。
写真18は沪過残渣の顕微鏡画像である。
いずれのサンプルでも木質組織が破壊され、微生物と考えられる物体の付着が認められた。
写真19は沪過残渣の室内での風乾過程である。
No.1,No.3,No4には残渣周辺に付着液の染み出しが認められたが、No.2には染み出しは皆無であった。
図12に沪過残渣の風乾重量の経過を、図13に放置開始時と終了時の乾燥沪過残渣重量を示した。
図14には放置による乾燥沪過残渣の重量残存率を比較した。
①ハイポネックスを添加していないNo.1とNo.2の比較によりグルコースの添加は重量の減少を
抑制していると言える。
②ハイポネックを添加したNo.3とNo.4の比較でもグルコースの添加は重量の減少を抑制していた。
③グルコースの添加は微生物の増殖を促進しバイオマス量を増加させるためであろう。
電気伝導度の低下はは微生物の増殖にあたりミネラルを吸収するためであると考えられる。
④グルコースのみを添加したNo.2においてはおそらくグルコースのポリマ-がつくられそれが
残渣凝集体を形成しているものと考えられる。
⑤ハイポネックスの添加は重量残存率を明らかに低下させた。
木質を分解する微生物の増殖を促進するためと考えられる。
ここで図5に戻って No.3(ハイポネックスのみ)とNo.4(グルコース+ハイポネックス)のT値の経過を考察したい。
グルコースとハイポネックスの両方の栄養源が存在した方が木材組織を分解する微生物の増殖が早くおこり
その溶解による暗色化がおこる。ついで溶解した暗色色素が分解されて明色化する。
一方グルコースなしでハイポネックスのみの場合は木材組織を分解する微生物の増殖が遅くなり、暗色色素の溶解
さらには分解も遅くなったと考えられる。
風乾したした沪過残渣は写真20に示すように栄養源を添加して放置を再開した。
沪過残渣は加熱せず室温で乾燥させているので、残渣に付着した微生物は生存しているはずである。
最終的に不溶解残渣がほとんどなくなることを期待し、観察を続ける。
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